「瀕死のローカル線」を黒字化した男の経営手腕 ひたちなか海浜鉄道「観光列車は興味なし」

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ひたちなか海浜鉄道は2017年度に黒字化を達成した(撮影:尾形文繁)
全国初の公募鉄道会社社長として、2008年にひたちなか海浜鉄道の社長に就任。2017年度には単年度黒字化を果たし、さらにローカル鉄道としてはありえないと考えられる“延伸”の計画まで進めている吉田千秋社長とは、どんな人物なのか。なにより、第三セクターという調整の難しい組織を安定的に運営する秘策はどこにあるのか、話を聞いた。

三セク経営に必要なのは、調整力と協調性

――鉄道会社の公募社長の在任期間としても最も長くなります。第三セクターは行政・市民と鉄道事業者という3者の調整が困難なものですが、長期にわたってうまくいっているのはなぜですか。

前職は富山県の万葉線という路面電車を運営する第三セクターの会社。もともと富山地方鉄道に入社したところ6年ほどで加越能鉄道に出向し、事業譲渡するに当たって鉄道の営業事業がわかる人間として私も一緒に分離された形になった。

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発足時、金融機関から1人、沿線2市から部長および課長が各1人、JRから安全面を担当する人が1人派遣されていた。しかしそのメンバーでは企画、営業、総務といった業務を担当する人はいなかったので、ほぼ一通り全体を見ていた。

行政や市民との調整も仕事の1つで、「住民は鉄道事業には詳しくないのだから、わからないことを言うのは当たり前、行政はお役所なんだから“お役所仕事”になるのは当たり前」と肯定して仕事をしていた。当社の社長に選ばれたのも、ひたちなか市の人たちに「こいつなら行政とも市民とも仲良くやっていける」と思ってもらえたからではないか。

――ひたちなか海浜鉄道の社長公募に応募したのはなぜですか。

湊線を第三セクターにするに当たり、先行事例ということで茨城県とひたちなか市の人たちが万葉線の視察に来た。その際に私が案内して説明し、その後、ひたちなかの地元にも講演で呼ばれた縁で、誰か経営者としてふさわしい人はいないかという問い合わせがあった。とくに思いつかなかったので自分の名前を書いて送ったら、最終的に選ばれた。

後日談になるが、「すべての評価項目においてどれも君はトップじゃなかった」ということだった。協調性とか、誰かを切り捨てないとか、行政ともうまくやれるといったことが買われたのだと思う。

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