孤独死の現場に見える「生きづらい現代」の断面 日本で「特殊清掃人」が増え続ける重い意味

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近年増え続けている孤独死。その増加に伴い、特殊清掃員の数もまた上昇の一途をたどっている(筆者撮影)

特殊清掃、略して"特掃"――。遺体発見が遅れたせいで腐敗が進んでダメージを受けた部屋や、殺人事件や死亡事故、あるいは自殺などが発生した凄惨な現場の原状回復を手がける業務全般のことをいう。そして、この特殊清掃のほとんどを占めるのは孤独死だ。拙著『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』の中から、近年増え続ける孤独死の特殊清掃の一部をご紹介したい。

関東近県の某市――。特殊清掃人の上東丙唆祥(じょうとう ひさよし・46歳)は、肩のあたりまでうず高く積もった大量のごみの山と格闘していた。

あまりにも悲惨な「孤独死」現場

2階への外階段を上り、奥まった部屋の玄関を開けると、まず鼻をついたのは、あまりにも暴力的なアンモニア臭であった。室内は、湿り気を帯びていて薄暗く、視界が悪い。

床を見ると、4リットルの特大の焼酎のペットボトルが、いたるところに無造作に転がっていた。ペットボトルの中身は、どれもが淡黄色に輝く液体で並々と満たされていた。その一部には、キャップが空いているものもある。そこから思わず吐き気をもよおすほどの強烈な異臭が漏れ出ていた。

特殊清掃業者にとって、孤独死の最も多く発生する夏場は書き入れ時だ。中には1日何現場もこなし、年間利益のほとんどを稼ぎ出す業者もいる。この特殊清掃需要の背景にあるのが、右肩上がりで増え続けている孤独死である。

孤独死とは、家でたった1人、誰にも看取られずに亡くなることだ。私が同行した2018年夏は、異常気象が続き、孤独死の特殊清掃の数が、ケタ違いに増えていたのだ。

特殊清掃業者が手がけるのは、もちろん孤独死だけではない。火事現場、自殺現場、殺人現場など多岐にわたる。しかし、その中でも近年圧倒的に多いのが、孤独死である。

孤独死と特殊清掃業者の数は、関連が深い。特殊清掃業者は、孤独死と比例するかのように、年々その数を増やし続けているからだ。

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