「まじめをやめる」末期患者が最期に得た悟り

介護した認知症の母に「ドロボウ!」と言われ

「…………」

「言えねえだろうがよ! ないからだよ。全部私がやって来た。違うか!? 本当にお前ら、いい加減にしろよ!? ドロボウはお前らだ、人の時間、人の人生を盗みやがってこら!?」

いつもはお上品で、声を荒らげることもない木島さんの剣幕に、認知症の母も、妹も、すっかり気圧されました

木島さんはそれを見まわして、一息つきます。

そして、先生、私は何て言ったと思いますか? ──思い出しながら、木島さんは楽しそうです。

私の前で、木島さんは上品で陽気です。母と妹を罵倒したとは到底思えないほどですが、彼女は涼やかに笑って言いました。

「もう私は十分あなたたちに娘や姉としての役割を果たした。もう自分たちでやってください。私も、重い病気になって自分の人生が大事なんです。もうまじめはやめましたから。玲子、困ったときには相談してもいい。でもあなたが今度はやる番よ。それじゃ」

去り際の手振りまで教えてくれました。

「楽しく生きなくちゃね」

この一件があって実母の認知症は少し改善したそうです。

「啓子はどうしたんだって。母親の記憶が戻ったんじゃないかしら。あんなショック療法がなければ戻らないなんて、わが親ながら仕方ないなって思いますが。その後、妹もちゃんと施設を見つけてくれて、楽しくやっているみたい」

すさまじい剣幕が、母の記憶を揺さぶったのかはわかりませんが、とりあえずは一件落着です。

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「先生、私本当に馬鹿だったと思います。我慢して、我慢して、本当は嫌なことを嫌って言えなかった。まじめは止めるべき。自分の人生を生きるならばね」

木島さんはかわいい女の子の写真が入ったフレームを見やりました。お孫さんの瑞香ちゃんです。

「楽しく生きなくちゃね」

その後、木島さんは退院し、孫娘さんとも充実した時間を過ごし、息子さんと娘さんに見守られながら、十分にまじめだった人生を閉じられました。

まじめはいけないよ──あの声が今も聞こえてきそうです。まじめすぎる人には聞かせてあげたいと夢想しました。

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