万引犯に「人件費」を損害請求する小売店の窮状

店員拘束6時間も「時間・労力ロスは大損害」

万引犯への人件費請求を周知する店内の張り紙=福井県内(写真:福井新聞)

逮捕された男(73)が福井県福井市内のスーパーで万引したのは柿など食料品2点で514円分。前科があった男は2019年1月、福井地裁で懲役6月の実刑判決を受けた。

「なぜ従業員の貴重な勤務時間を事情聴取などで割かれなければならないのか。厳重な処罰を」。裁判で読み上げられた店長の憤りは大きかった。店にとっては、商品代だけでなく人件費の損害も深刻だ。そうした中、被害を減らそうと、万引犯に人件費を損害賠償請求している企業が福井県内にある。

福井県内外で大型ディスカウントストアを展開するPLANTは2008年、万引犯に対し、商品代に加えて従業員や警備員の人件費を請求する対策を始めた。

警察への引き渡し、事情聴取や実況見分の立ち会い、被害届の提出に要した時間など、従業員らの業務に支障が出た時間を5分単位で時給換算し、間を置かず万引犯(未成年の場合は保護者)に賠償金として請求している。

店への迷惑を認識し、反省してもらいたい

「万引犯を捕捉したら原則警察へ通報している」という同社は18年9月までの1年間、全23店舗で150人を取り押さえた。うち129人に計92万円の人件費を請求し、119人から払い込まれた。

請求の平均額は7100円で「素直に応じるケースが多く、相手からのクレームはほぼない」という。近年の平均請求額は6千円ほどで、9割以上の万引犯が支払っている。回収率アップの工夫として、郵便局の払込用紙を相手側に送っている。

PLANTで万引し、昨年逮捕された県内の70代男性は「弁護士が拘置所に請求書を持ってきた」と振り返る。執行猶予付きの判決後、すぐに店長へ謝罪に行き、人件費約1万5千円を払った。

同社総務部は「従業員は万引1件当たり2~3時間、逮捕となれば6時間拘束されることもある。この間、本来の業務はできない。時間と労力のロスは大きな損害」と深刻さを訴える。請求の目的について「万引は小売業の経営を圧迫する。犯した過ちの重大さや店への迷惑を認識し、反省してもらいたい」と語る。その効果か、取り押さえた万引犯は13年の296人から半減している。

損害賠償請求という対抗策を広めようという動きもある。NPO法人「全国万引犯罪防止機構」(東京)は2018年11月、A4判6ページの手引書を作成し、小売業向けに1部100円で販売を始めた。ただ「人件費請求の取り組みは全国で10社ほど。まだ少ない」と理事・事務局長の福井昻さん(78)。「捕まったら商品を返せばいいだろうという、犯人の安易な考えを改めさせなければならない」と力を込めた。

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