生活困窮者を囲い込む「大規模無低」のカラクリ 生活保護受給者の「収容」はなぜ加速するのか

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「大規模無低」の簡易個室。2DKの部屋を5つに区切っており鍵はない。これで家賃は4.6万円(左)。個室への出入りはアコーディオンカーテン(右)(編集部)

昨年12月30日、暮れも押し詰まったこの日の夜、東京都町田市内のアパート「町田第二荘」に住む72歳の無職男性は、同居する61歳の無職男性に殺意をもち、首や胸を包丁で刺した。その後、刺された男性は搬送先の病院で死亡した。

警視庁や関係者によれば、殺害現場となった部屋では加害者、被害者を含め2DKに4人が同居。ダイニングやキッチン、トイレと風呂が共同で、2段ベッドが置かれた部屋で暮らしていたという。加害者が飲酒しているのを被害者がとがめたことで口論となり、殺害に至ったとされる。このアパートでは飲酒が禁止されていた。

その4カ月前の昨年8月、東京都江戸川区内のアパート「葛西荘」に住む46歳の無職男性が、同じ部屋に住んでいる70代男性に「生活音がうるさい」と注意されたことに腹を立て、顔を殴るなどの暴行を加えた。殴られた男性はその後死亡。暴行との因果関係は明らかになっていないが、2人は一部屋で生活していた。

生活保護受給者が集団生活

両事件の現場となった町田第二荘と葛西荘は、一見普通のアパートのような外観だが、生活保護受給者など生活困窮者を対象とした施設、「無料低額宿泊所」(無低)だ。

殺人事件の現場となったSSSの無低「町田第二荘」。事件後も同施設には中高年男性が暮らしている(記者撮影)

無低は生活困難者が一時的に暮らすため、無料または低額な料金で利用できるとされる社会福祉法に基づく施設。厚生労働省の調査によれば2018年時点で、全国569施設に1万7000人が入所、そのうち生活保護受給者が1万5000人に及ぶ。法的位置づけのない無届け施設も加えると、入居者数は2015年時点で約3万2000人に及んでいる。

厚労省の無低に関する現行ガイドライン(2015年改定)は、居室は原則として個室とし、居室面積は7.43平方メートル(4畳半)以上、地域の事情によっては4.95平方メートル(3畳)以上と定める。ただし改定以前からの施設を中心に、ガイドラインの居室面積を満たしていない施設や、相部屋、また一部屋をベニヤ板などで区切っただけで天井部分が完全につながっている「簡易個室」も「一定数存在する」(厚労省)のが現状だ。

この無低業界の最大手で、上記の町田第二荘(定員20人)、葛西荘(同47人)を運営しているのが、NPO法人(特定非営利活動法人)の「エス・エス・エス」(SSS)(菱田貴大理事長)だ。同法人は無低を首都圏に122施設、定員数は4839人(2018年10月末時点)と大規模展開。2018年度の年間収入は51.7億円、収支は4300万円の黒字を確保している。

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