60歳を超えても「書いて稼ぐ男」の快活な生き方

裁判、町中華、狩猟…独特なルポを連ねる

35年にもわたってさまざまなテーマのルポを執筆してきた北尾トロさん(筆者撮影)
これまでにないジャンルに根を張って、長年自営で生活している人や組織を経営している人がいる。「会社員ではない」彼ら彼女らはどのように生計を立てているのか。自分で敷いたレールの上にあるマネタイズ方法が知りたい。特殊分野で自営を続けるライター・村田らむと古田雄介が神髄を紡ぐ連載の第56回。

北尾トロさん(61歳)は、さまざまなテーマのルポを執筆するフリーライターだ。

何度も裁判所に通い、リアルに殺人、DV、詐欺、強姦――などの裁判を傍聴して描いた『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』(文春文庫)は60万部を超える大ベストセラーになった。作品は、漫画化、映画化もされて世の中に広く浸透した。

「初恋の人に23年ぶりに告白する」「激マズ蕎麦屋で味の悪さを指摘する」……など、人がやりたくないことを勇気を出してやってみる『キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか』(幻冬舎文庫) も10万部を超えるヒット作品だ。

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2007年からは日本に「本の町」を作るべく活動、長野県伊那市高遠町にてブックフェスティバルを開催した。

2010年からは“人生の役に立たない”をテーマにした専門雑誌『季刊レポ』を創刊し、編集・発行人となった。

60歳を超えた現在も「町中華」や「狩猟」など新しいテーマを精力的に取材して興味深い作品を世に放ち続けている。

北尾さんはどのような人生を経てライターになったのか? 西荻窪のタイ料理店で話を聞いた。

中学生の頃は「いじめられた」

北尾さんは福岡県福岡市で生まれた。小学校時代は九州ののんびりとした環境で育った、ごく普通の素朴な少年だった。

「中2のときに父親の転勤で兵庫県尼崎市に引っ越して、それからが大変でした」

九州と尼崎では言葉が全然違う。聞き慣れない九州弁を使う転校生はいじめられた。暴力も受けた。

もともとは明るかった北尾少年だが、尼崎ですっかり縮み上がってしまった。

「当時は“学校をサボる”という発想もなくて、とにかく『しゃべるとトラブルになるから、しゃべらないでおこう』って思いました。中2のときは、1年間ほとんどしゃべらないでいましたね」

北尾少年は、まったくしゃべらずにジッとしている不気味な存在になってしまった。ものすごくつらく、ひたすらに長い1年だった。

「クラスの中で押し黙っている自分を、俯瞰して見ている自分がいるんです。

『今日も暗い。だれも寄ってこない』

って、割と冷静に分析している。もうあんまりにも苦しくて苦しすぎて、逆に楽しくなってくるんですよ。

『よし!! こうなったらガマンくらべだ!!』

とか、状況を無理やりエンタメ化して自分をなぐさめる習慣がつきましたね。そうしていないと、孤独で孤独でおかしくなっちゃう。

今思えば、その1年で“自分を客観視して面白がる”というライターとしての資質が身についたのかもしれません」

中2の頃は、学校に行かなくていい日曜日だけが楽しみだった。毎週、自転車で兵庫県伊丹市にある映画館に通っていた。

「自転車で行くんです。『伊丹グリーン』と『伊丹ローズ』って名画座が同じビルの1階と地下にありました。2本立て150円だったから中学生でも通えました。

伊丹グリーンは主にマカロニ・ウエスタンをやっていて、大好きでした。映画を見ながら『ぶち殺せー!!』って、ストレス発散してたんでしょうね(笑)。

伊丹ローズは少しだけエッチな映画をやっていて、見たいんだけど見られない。でも毎週通ってたら受付のおばちゃんに『あんた毎週来てるでしょ。いいよ入って』って言われて見られるようになりました」

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