経済学を学ぶ人が絶対に知っておくべきこと

無意識にあなたの価値観を支配する怖さ

経済学を学ぶときには個別の学説より前にまず知っておくべきことがある(写真:Rawpixel / PIXTA)
介護保険制度の創設などに携わった厚生労働大物官僚として知られ、内閣審議官として「社会保障・税の一体改革」も取りまとめた香取照幸さん。書籍『教養としての社会保障』(東洋経済新報社)を出版し、社会保障の情報を発信し続ける香取さんは、実際の政策立案には、価値観を包含した経済理論が大きな影響を与えているという。

政策思想としての経済学

世の中閉塞感に満ちあふれているせいか、最近非生産的で反知性的な言説ばかりが出回っています。そんな中、『ちょっと気になる政策思想―社会保障と関わる経済学の系譜』(権丈善一著、勁草書房)は、わくわくするような知的刺激を読者に与えてくれます。こういう知的で示唆に富む本に出合えるのは、実にうれしいことです。

経済学者は、「万能の理論」を求めて研究を続け、さまざまな「科学的手法」を駆使し、より精緻なモデル、より包括的な「経済理論」を構築してきました。

「厳密な科学的手法に依拠した学問」といわれる経済学ですが、真の社会「科学」たりうるか、という話になると、今なお大議論があるようです。
何となれば、経済学の世界には、複数の、それこそ学者の数だけの異なった経済「理論」が「同時並行」で存在しているからです。

自然科学の世界で学者の数だけ科学理論=真理が同時に存在する、などということはありません。新しい科学理論が生み出されれば、過去の理論は吸収されるか、乗り越えられていきます。

科学の世界では、「真理は1つ」です。

他方、本書の著者を含め多くの論者が指摘するように、経済学における「理論」とは、要するところ「価値判断が1つの理論的体系にまとめられているもの」です。そしてその価値判断の出発点は個々の研究者の問題意識(=彼が追い求める「答」)であり、ゆえにその数だけ「経済理論」が同時に存在しうるし、現に存在しているのです。

言い換えれば、すべての経済学派は皆それぞれに「思想性」を持っていて、私たちはその「思想性」も一緒に経済学を学んでいるのです。そしていつしか、知らず知らずのうちにその経済学が私たちの物の見方・思想を支配するようになります。

このことをよくよく自覚すべき、と著者はいいます。「右側にせよ左側にせよ、経済学者の政策論は余裕を持って眺めるべし。一段高いところから俯瞰するような目線で見なさい」と。

経済学の根底には思想がある、ということは、経済学は「政策思想」を内包しているということです。なので、経済学の系譜はそのまま「政策思想―経済政策―の系譜」でもあります。

すなわち、経済学とは、実際の経済政策を支える理論的・思想的根拠として機能する「使える学問」なのです。このことが経済学を「社会科学の王者――現代における万能の政策ツール」たらしめた大きな理由です。

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