害獣の「猪」を特産品に変えた石川の創意工夫 農家にとって「激増する猪被害」は死活問題

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石川県羽咋市がイノシシ対策に本腰を入れ始めた(写真:mauribo/iStock)
能登半島では近年、イノシシが激増しているという。理由は、温暖化によって里山に雪が少なくなっているから。兵庫県や京都府内にいたイノシシが北上し、北陸にまで生息域を拡大。石川県内では、農作物を食い荒らす被害が相次いでいる。そこで能登半島の中ほどの中能登地区では害獣であるイノシシを駆除し、転じて「特産品」とするために知恵を絞っている。捕獲されたイノシシは食肉となるだけでなく、いろんな商品に生まれ変わっている。イノシシのユニークな活用法について聞いてみた。

イノシシは足が短いので、積雪30センチ以上の日が70日以上続くと生息できないといわれている。このため、かつては12、1、2月には大雪に見舞われる北陸にイノシシは少なかった。しかし近年、温暖化に伴って爆発的に増えている。石川県では明治から大正にかけて獣害として駆除されて絶滅したとされてきたために対策が遅れ、田畑が食い荒らされる被害が深刻化していた。

温暖化によって北上し、能登半島で激増

石川県羽咋市では、イノシシとの戦いに疲れて農業をやめる人まで出てきたため、市を挙げて対策に乗り出した。田畑を守るための電気柵を設置し、おりやわなを仕掛けて捕獲。捕獲者には奨励金を払っている。同市では捕らえたイノシシを自然の恵み・資源として特産品にする方向を模索し始めた。

そこで、イノシシの活用を進めるために2015年4月「地域おこし協力隊」として2人の県外出身男性を採用、2人はイノシシの解体技術などを習得した。同年10月にはイノシシ専用の獣肉処理施設を整備し、「のとしし大作戦」と名付けて食肉加工と商品開発・販売を担い、「のとしし」をブランド化。さらには、協力隊の任期が3年で終わることから、2017年12月に「合同会社のとしし団」を立ち上げ、施設の運営を開始した。

のとしし団の事務を担当する髙田守彦さん(62歳)によると、石川県内には年間、18万頭から20万頭のイノシシがおり、2017年度は7700頭が捕獲された。2018年度の捕獲数は8000頭を超える見通しとなっている。宝達志水町、羽咋市、中能都町、志賀町で捕獲されたイノシシの約2割が、羽咋市の獣肉処理施設に持ち込まれる。捕獲から解体までは、食の安全を徹底し、慎重に作業が行われる。

イノシシの活用について話す髙田さん(筆者撮影)

詳しく聞いてみると、猟銃で撃ったイノシシは対象とせず、わなにかかったもののみを扱うという。まず、生きた状態で病気などがないかを確認し、とどめを刺す。「放血」といって血を抜く作業をした後、内臓を出して異常が見つかれば、食肉にするのはやめる。

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