「認知症」の人と会話がギクシャクする背景 社会的認知が低下するとはどういうことか

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認知症になった人の心の中はどうなっているのでしょうか。写真はイメージ(写真:Willowpix/iStock)
「認知症になって記憶が失われても、心が失われるわけではない」とは、よく聞くフレーズです。では、その「心」とは、いったいどのようなものなのでしょうか? 佐藤眞一教授らの研究グループは「CANDy(キャンディ)」という日常会話によって認知機能を評価する方法(尺度)を開発しました。「CANDy」は日常会話によって認知症の人を知り、会話を増やすためのツールでもあります。本記事では佐藤氏の著書『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』を基に認知症になると社会的認知が低下する背景について解説します。

コミュニケーションに欠かせない「社会的認知」とは

 認知症になると、言語・非言語を含めてコミュニケーションにズレが生じますが、その根底には、注意や記憶、見当識、社会的認知などの低下があります。

たとえば、同じことを何度も言って周囲の人をイライラさせることがよくありますが、その根底にはまず、物事を記憶する力の低下があります。

「この件はさっき言った」という自分の行為を記憶していないために、何度も繰り返し同じことを言うのです。 さらに、情報処理能力が低下して、一度にたくさんの情報を処理できないために、あることが頭に浮かぶとそれだけを繰り返し考えるといったこともあります。

また、同時にあちこちに注意を向ける力も低下しているため、周囲の人に注意を向けてその様子を見ることも難しくなります。 見当識(時間、場所、人の認識)の低下も、会話のズレを生みます。

「お正月にはみんなが来るから」と言われても、今がお正月の前か後かわからないため、「そう……」と生返事をしたり、「お正月っていっても、門松とか、まあそんなものでね」などと取り繕いをしたりして、会話が続きません。

目の前にいる人が誰かわからなければ、何を話したらいいかわからないでしょうし、長年連れ添った配偶者に「どちら様ですか」などと言われれば、こちらが悲しくなって話す気力が失せてしまいます。

そして、社会的認知の低下が、会話のズレに拍車をかけます。社会的認知とは、非常に広い領域を含む概念ですが、ここでいう社会的認知は、相手の表情や言葉、身振りなどから心の中を推察し、その場に合った適切な行動をとる能力を指します。 会話をする際に私たちは、相手の言葉を聞き、その表面的な意味だけでなく裏にある意味も考え、相手の表情や声のトーン、仕草などと照らし合わせ、相手の本心がどこにあるのかを推察して、言葉を返します。暗黙の了解によって、相手も同様の過程を経て言葉を発していると思っています。

ところが認知症になると、社会的認知の低下によって、相手の心を推察することが難しくなります。まず比喩や皮肉、シャレ、含みのある言葉などが理解しにくくなり、言葉を表面上の意味だけで捉えるようになります。

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