即興演奏の絶品が聴ける「ブルー・トレイン」 ジョン・コルトレーンの伝説の始まり

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ジャズの世界ではもはや神格化されているジョン・コルトレーン(1926-1967)(写真:GRANGER.COM/アフロ)

ジョン・コルトレーンといえば、天才・鬼才・異才がひしめくジャズの世界にあって、他の追随を許さない独自の地位を築いています。ジャズが最も熱かった時代を象徴する存在です。非常にストイックで求道者のような印象があります。その分、ちょっと近寄りがたい雰囲気が漂っているかもしれません。が、外見や評判が、その人の内面のすべてを表しているわけではありません。怖い顔をしているギャング風に見える男が、実は、心優しき紳士ということもあるじゃないですか。

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『ブルー・トレイン』は、コルトレーンがセッション・リーダーとしてブルーノート・レコードにて録音した唯一の音盤です。そしてここから、コルトレーンの快進撃が始まります。コルトレーンは、40年と10カ月の短い生涯で実に数多くの音盤を残しました。それは、天才の証しでもありますが、その中にあって『ブルー・トレイン』は、間違いなく最高傑作の1つです。

実は、コルトレーンは遅咲きで、秘められた巨大な才能が開花するのに、けっこうな時間がかかっちゃったのです。この音盤を録音したのは、31歳の誕生日の1週間前でした。ちょっとだけ、親しみが湧きませんか?

シンプルで美しいジャケット

まず、ジャケット写真を見てください――。極めて印象的。

かつて、アインシュタインは、「真理はシンプルにして美しい」と喝破しました。『ブルー・トレイン』のジャケットもシンプルかつ美しいです。しかも風格を感じさせます。全体にタイトルのとおり青味がかった色調。

そこに、コルトレーンのアップです。陰影が深く、光と影のコントラストが鮮やか。漆黒を背景に、目を閉じたコルトレーンを正面からとらえています。左手を頭の後ろに、右手は口元に当てています。テナー・サックスのマウスピース部分が左肩側から見えています。

文字は、必要最小限にして、絶妙のバランス。大文字と小文字、文字サイズを抜群のタイポグラフィック・センスでアートにしています。

john coltrane BLUE TRAIN blue note 1577。

1577。この番号は、ジャズ愛好家にとっては、ブルーノート1500番台の傑作を意味しています。

このジャケットは、写真家のフランシス・ウルフとデザイナーであるリード・マイルスのコラボのなせる技です。トリビアですが、リード・マイルスは、ウルフの写真をデザインの観点から大胆にトリミングすることが多かったのです (『クール・ストラッティン』が有名)。ですが、本音盤については、トリミングしていません。また、リード・マイルスは、後年、ロサンゼルス・オリンピックの公式デザインを手がけています。

機会があれば、30センチ X 30センチのLPサイズのジャケットで見て下さい。音が聴こえて来そうになります。

では、見ているだけでなく、実際に聴いてみましょう。

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