日産に追放された「辣腕経営者」ゴーンの功罪 危機から復活遂げたが社内には不満も募った

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長らく日産のトップに君臨してきたカルロス・ゴーンが逮捕された(写真は2013年、撮影:大澤 誠)

日産自動車のカルロス・ゴーン会長が11月19日、金融商品取引法違反容疑(有価証券報告書に報酬を虚偽記載の疑い)で東京地検特捜部に逮捕された。同容疑のほか、会社の資金、資産、経費を私的流用した疑いも強まっており、証拠が固まれば、背任か特別背任で立件される可能性も浮上している。

ゴーンは倒産寸前の日産を再建したカリスマ経営者として知られる。その辣腕経営者がなぜ不正に走ったのか。ゴーンの功罪を検証しながら考えたい。手前味噌になるが、筆者は朝日新聞記者時代からゴーンの単独インタビューを何度もした経験があり、1999年には日産とルノーの提携もスクープした。こうした経験も織り交ぜて解説したい。

筆者が日産ルノーの取材に深くかかわることになった原点は、1999年3月13日の成田空港での取材にある。今でも時折記憶がよみがえることがある。この日の午前11時50分発の全日空205便で、当時、日産の社長だった塙義一氏がパリに飛んで、ルノーとの最終交渉に臨んだ。許可を取って飛行機の搭乗口で待ち構えていた私は塙氏ら関係者に確認を取り、「日産ルノー提携へ」の特報を朝日新聞夕刊1面トップにぶち込んだ。

交渉は成立して、日産はルノーから資金を得て倒産を回避した。そして、日産の経営再建のためにルノーから送り込まれてきたのがゴーンだった。

9つの機能横断チーム発足で再建策を策定

来日したゴーンがまず取り組んだのがクロスファンクショナル(CFT)チームの設置だった。日本語に訳すと機能横断チームとなる。日産は縦割り組織の弊害から、開発、生産、購買、販売といった主要部門が「車が売れないのは技術が悪いから、いやコストが高くて営業力がないから」と責任をなすり付け合ってきた。それが原因で改革の意思決定と実行が遅れた。こうした風土にゴーンはメスを入れることが必要と判断したのだ。

解決すべき課題ごとに9つのCFTチームを発足させ、「パイロット」と呼ばれるチームリーダーはほとんど40代の課長クラスに任せた。チームは関係する複数の部門から人材が集められて構成された。部門最適ではなく、全体最適を目指したのである。後に発表される再建策「日産リバイバルプラン」の原案は、このCFTが作った。

当時、「パイロット」の一人は、筆者にこう語っていた。「フランス料理を食べながらゴーンさんと話し合いをしたが、矢継ぎ早の指示で料理が喉を通らなかった。世界の企業の事例を上げながら、こんな取り組みを日産でもできないだろうかと、自分で多くの指標を持ちながら改革のネタを自身で提示する姿が印象的だった。これがプロの経営者なのかと思った」

1999年7月に発足していたCFTは、同年10月18日に発表した「リバイバルプラン」をわずか4カ月で完成させた。ゴーン経営の神髄の一つは、スピードであることを実感した。

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