暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」のリアル

日本の食卓を支える魑魅魍魎の世界とは?

サカナを取り巻く食品業界最大のタブーとは(写真はイメージです、記事とは関係ありません。写真:wacho / PIXTA)

裏社会のノンフィクションはこれまで何冊も読んできたが、最も面白みを感じるのは無秩序のように思える裏社会が、表社会とシンメトリーな構造を描いていることに気付かされた時だ。

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しかしここ数年は暴対法による排除が進み、ヤクザの困窮ぶりを伝える内容のものばかり。相似形どころか、このまま絶滅へ向かっていくのかとばかりに思っていた。だから彼らがこんなにも身近なところで、表社会とがっちりスクラムを組んでいるとは思いもよらなかったのである。

本書『サカナとヤクザ』は、これまでに数々の裏社会ノンフィクションを描いてきた鈴木智彦氏が、サカナとヤクザの切っても切れない関係を、足掛け5年に及ぶ現場取材によって描き出した1冊だ。

表社会と裏社会の絡まり合うサカナの世界

これまでなぜか語られることのなかった食品業界最大のタブーを真正面から取り上げながら、1ミリの正義感も感じさせないのは、著者の真骨頂である。そして、もはやヤクザの世界に精通していなければ読み解けないほど、サカナの世界では表社会と裏社会が複雑に絡まりあっていた。

まず驚くのは、私達が普段手にする海産物のうち、密漁によって入手されたものの割合がいかに多いかということである。いずれも推計ではあるが、たとえばアワビは日本で取引されるうちの45%、ナマコは北海道の漁獲量の50%、ウナギに至っては絶滅危惧種に指定された今でも、その3分の2ほどが密漁・密流通であるという。ニッポンの食卓は、まさに魑魅魍魎の世界によって支えられているのだ。

著者が最初に赴くのは、アワビの名産地として知られる三陸海岸。東日本大震災の影響によって監視船や監視カメラが破壊されてしまったこの地区では、密漁団にとって好都合としか言いようのない状況が出来上がっていたのだ。

密漁団と直に接触することで見えてきたのは、実際に密漁を行う人たちは巨悪の一部分に過ぎないという事実だ。当たり前のことだが、買い手がいるから売り手がおり、売り捌くことが出来るからこそ密漁は蔓延る。

欲に目がくらんだ漁業協同組合関係者、漁獲制限を守らない漁師、チームを組んで夜の海に潜る密漁者、元締めとなる暴力団……。まさに表と裏が入り乱れた驚愕のエコシステムが、そこにはあったのだ。

一般的に、密漁アワビは闇ルートで近隣の料理屋や寿司屋にも卸されるが、それだけでは大きな商いにならないため、表の業者の販路に乗せ、近場の市場にも流されていく。むろん移転を間近に控える築地市場だって例外ではない。

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