変わる葬送、「海洋散骨」が静かに広がる事情 実態に法整備が追いついていない側面も

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海洋散骨の様子。近年「墓に入る」のとは違う選択をする人が増えている(記者撮影)

横浜港にかかる横浜ベイブリッジをくぐり抜け、しばらく進むと船が止まった。

遺族が船室からデッキに移動し、散骨が始まる。水溶性の袋に収められた遺骨を海に流し、献花、献酒と続く。遺族が船室に戻ると、船は散骨した場所を3回旋回。お別れの汽笛が海に響き渡った。

「夫と海でつながりたい」という思い

散骨式を執り行った遺族に伺うと、故人の夫は第2次世界大戦で南洋において戦死。自分が亡くなった際には「夫と海でつながりたい」と言っていた。その遺志をかなえるための海洋散骨に、親族からの反対も特になかったという。

海洋散骨式を施行したシー・ドリーム(神奈川県座間市、ブランド名は「海洋散骨プロデュース珊瑚礁」)は2010年の設立。葬儀関連業界と旅客船業界の両方で働いた経験を持つ今井健夫社長は創業の経緯をこう語る。

「マリーナの支配人をしていた際、葬儀社から散骨施行のために船を借りたいという依頼が年々多くなった。ただ、船という特有の場所や、天気に関する知識のズレがあり、これではいつか事故につながるかもしれないと思った。それなら葬儀業界と船業界に精通してきた自分がやるべきと決断した」

料金は横浜出発の1時間コース、10人までのチャーター船で18万円。コースや人数によって料金は変動し、複数の遺族で行う合同散骨や遺族が乗船しない委託散骨もある。件数は着実に増え、現在は年間150件程度を施行している。

散骨を希望する遺族には事前に詳しく説明。船上においても、故人や遺族に関する話題に加え、散骨の歴史や散骨後の供養のあり方などを語りながら散骨式を進行する。

「散骨の場合には、お墓のように『ここに行けば故人に会える』という場所がない。ただ、故人のことを日々、思い出すことこそが本当の供養ではないかと、ご遺族にはお伝えしている。海洋散骨も、故人をしのぶ大切な思い出となる」と今井氏は言う。

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