0歳の長男絞め殺した30代うつ病女性の懺悔

なぜ彼女は愛しいわが子を手にかけたのか?

確かに月齢の低い赤ちゃんの育児は、大変の一言に尽きる。睡眠のペースが定まっていないため、昼夜問わず泣いて、そのたびに母親は授乳や、おむつ替えを繰り返すことになる。生後2カ月はそんな日々の真っただ中だ。事件まで、彼女に何があったのか。

10年以上「うつ病」に悩まされ続けた美緒被告

のちに殺人罪で起訴された美緒被告の裁判員裁判は、翌2018年の7月31日から東京地裁立川支部で開かれた。シワのない白くゆったりしたブラウスと黒のスカート、黒の靴下を履いて法廷に現れた美緒被告。少しだけぽっちゃりした体型に、色白でつるつるとした肌がまぶしく、大学生だと言っても通じそうなあどけなさがあった。

「間違いありません」と罪状認否でも認めた起訴状によれば、美緒被告は事件当日の14時30分ごろ、健ちゃんの頭部を壁に打ち付け強い打撃を与えたのちに首を絞め、その日の夜に、頭蓋骨多発骨折や頸部圧迫により死亡させたという。

起訴事実をすべて認めている美緒被告の公判の争点は、量刑のみ。多くの殺人事件の刑事裁判では、被告人側が犯行当時には心神喪失もしくは心神耗弱(しんしんこうじゃく)状態にあったと主張しても、それが判決でそのまま認められることは少ない。だが、美緒被告は犯行当時うつ病で、責任能力が一定程度減退していた、つまり“心神耗弱状態”にあったことは検察側も争ってはいなかった。長年裁判を傍聴しているが、少し珍しいケースだ。

たしかに美緒被告は出産前からうつ病に苦しんでいた。冒頭陳述によると、大学4年生だった22歳のとき、失恋を契機にうつ病を発症し、家から出られない日が続いた。投薬治療を行い、大学は卒業。仕事も少しずつ始め、投薬は続けていたものの「寛解していた」という。そして4年間付き合った大学時代の同級生と別れたのちに、夫(事件後に離婚)と出会い、31歳のときに結婚。子どもが欲しいと望み、スムーズに妊娠、出産した。だが、幸せの絶頂にあるはずのこの時期から、また美緒被告のうつがぶり返してしまうのだ。

<弁護側冒頭陳述より>
「育児への不安が押し寄せ、その後、育児のために仕事を辞めるか悩み始めます。2016年7月ごろには『仕事を辞めたら母親が死んでしまう』とそんな考えが出てきて体重も落ちてゆき、仕事に対する考えは二転三転します。8月。実家の家族と食事中に突然美緒さんは泣き始め、久しぶりに病院に行き、投薬を再開することになりました。そのまま、夫と住む家には帰らず実家に住むようになりました……」
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