83歳「前科18犯」、金があっても盗む女の悲哀

伝説のスリ師「デパ地下のさと婆」が述懐

弁護人「当日は何が目的で外出したんですか?」

さと婆「三河島にある肛門の病院行って、お休みだったんで、上野行って、事件を起こしてしまいました」

弁護人「家の人に伝えて外出しました?」

さと婆「はい、病院行ってくるね、と言って出たつもりです。お休みだったんで、戻って事件を……私は言ったつもりだったんですけど……聞いてないよと言ったけど私は保険証もみんな持って行きましたから……」

弁護人「三河島から上野まで歩き回っていたのはなぜ?」

さと婆「……(うつむく)……(さらにうつむく)……」

弁護人「なかなか答えづらい? どのくらいお金もっていた?」

さと婆「5100円くらい」

弁護人「どうして盗ることにしたんですか?」

さと婆「財布が見えてたから……」

弁護人「盗ったらこういうことになるとは?」

さと婆「……」

弁護人「忘れちゃってた?」

さと婆「(うなずく)」

弁護人「金に困ってた?」

さと婆「ちょっとあの……痔も悪いし……(うつむく)」

痔に悩まされていたさと婆は、病院に行くために外出したという。だが家族にそれを告げたかはあいまいな話にとどまり、さらに病院のある三河島から上野まで移動した理由も語られなかった。しかも当日、病院は休みだった。

スリを繰り返すのは貧困が理由ではない。当日は所持金も十分にあった。「母には月20万円の賃貸収入があり、2カ月に1度、12万円の年金が振り込まれている」と長男も調書で語っている。

盗むことに依存してしまう「クレプトマニア」

ここ近年、盗みを繰り返す者の中に、物を盗む行為そのものに依存する「クレプトマニア」が存在するといわれている。実際に窃盗の再犯における公判ではこうした主張がなされることもある。

さと婆は、弁護人も本人もクレプトマニアとの主張はしなかったが、検察官は次のように聞いた。

検察官「『治す』にはどうしたらいいと思いますか?」

さと婆「人ごみに出ないように、1人で出歩かないように……」

検察官「でも前回も前々回のときもわかってたんですよね。繰り返しになりますが、じゃあなぜ上野に行ったんですか?」

さと婆「……(うつむく)……(さらにうつむいて涙をふく)」

さと婆には懲役4年が求刑され、2016年6月13日に懲役2年6ヵ月の判決が言い渡された。遅くとも来年早々には出所するだろう。そのころ、米寿も目前に迫る年齢となっている。

さと婆が再び罪を犯さないよう、見守りを続けていた家族たちは、これまで逮捕のたびに大きくメディアで騒がれ、平穏な生活を乱されてきた。今回、80歳を超えてもなお、盗みを働いてしまったさと婆。やがて来る彼女の出所の日を、家族はどう受け止めるのだろうか。

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