ガンと闘いフットサル選手を続ける男の矜持 湘南ベルマーレ・久光重貴37歳の向き合い方

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湘南ベルマーレフットサルクラブに所属する久光重貴(ひさみつ・しげたか)選手(筆者撮影)

ガッチリした体格、こんがりと焼けた肌。いかにもアスリート然とした風貌の男は、柔らかい笑顔を浮かべながら、明るい表情で、筆者の前に座ってオレンジジュースを飲んでいる。

一見すると、あまりにも元気に見えたので、現在の病状をやんわりと訊いてみた。

その男は、落ち着いた表情でこう語った。

「昨日、新しい抗がん剤治療に入ること、再び入院するため少しの間チームから離れることを、チームスタッフやチームメイトに伝えてきました」

31歳の時に起きた異変

フットサルのFリーグ、湘南ベルマーレフットサルクラブに所属する久光重貴(37)が、自分の体に異変が起きていることに気づいたのは31歳の時だった。

“疲れが抜けないな”と感じることはあったが、それは年齢から来る疲れだと思っていた程度で、大きな変化を感じていた訳ではなかった。

だが、Fリーグ開幕前のメディカルチェックで、それは見つかった。

何度も再検査を受けた結果、診断されたのは、ステージ3Bの右上葉肺腺がん。すでにリンパ節に転移しており、手術も放射線治療もできない状態だった。

医師から余命の話も切り出されたが、久光は断った。

「時間を決められたくはなかったんです。たとえば、余命が2年だと聞いてしまったら、その2年間をどう生きるかということだけで頭がいっぱいになってしまいます。逆に余命を聞かずに、一生懸命にいろいろなことに取り組んだほうが、つねに先を見て前向きに生きていけるんじゃないかと思いました」

久光は、この時、さらに驚くべき選択をする。医師と相談し、抗がん剤治療をしながらトップアスリートとして活動することを決断したのだ。そんな前例は、久光自身はもちろんのこと、医師も聞いたことがなかった。

前例がないのだから、何をどこまでやったら良くて、何をやってはいけないのかは誰にも分からない。医師からは、無理はせず、辛くなったら休むようにだけ言われている。

次ページ医師に背中を押され、前例のない挑戦へ
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