「未来のミライ」が切りひらく日本映画の未来 「Jポップ化」するアニメ映画を超えた先に

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『未来のミライ』は7月20日より全国東宝系で公開中(写真:©2018 スタジオ地図)

今回は映画をテーマとしたい。昨今の映画界の話題といえば、大ヒット中の低予算ゾンビ映画『カメラを止めるな!』だが、意表をついて(?)、細田守監督の最新アニメ映画『未来のミライ』を取り上げることとする。

細田守監督と言えば、『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)と、3年おきに作品を公開、そして『サマーウォーズ』の興行収入は16億5000万円、『おおかみこどもの雨と雪』は42億2000万円、『バケモノの子』で58億5000万円と、着実に人気を広げてきた監督である。

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私自身の感想で言えば、この4作品の中では、『おおかみこどもの雨と雪』に最も感動した口である。

感動のポイントは、細田守一流の精巧なアニメ表現と、親子愛に絞った独創的な脚本との組み合わせ。

逆に『バケモノの子』も良かったのだが、年のせいか(当時48歳、現在51歳)、これでもかこれでもかという濃厚な展開に、やや「胃もたれ」をした記憶がある。

日本映画の「未来」につながっていく可能性

『未来のミライ』は「家一軒と庭一つ、どこにでもあるたった一つの家族を通して、生命の大きな循環、人の生の織り成す巨大なループを描き出す」(公式サイト)とのことなので、私好みの『おおかみこどもの雨と雪』に近い親子愛モノかもと期待しながら、公開初日に足を運んだ。

結論、この映画は「意欲作」である。その「意欲」が過ぎる結果、鑑賞前に抱いた期待の多くは、ことごとく裏切られた。しかし、その「裏切り」が、とても気持ちよかったのだ。さらに言えば、その「裏切り」は、日本映画界の「未来」につながっていく可能性を持つものに思えたのである。

まず1つ目の「裏切り」は、最近のヒットアニメ映画の定石である、大冒険活劇やファンタジー、恋愛モノではないという点だ。

もちろん「大冒険活劇」「ファンタジー」「恋愛モノ」をどう定義するかによって、解釈は変わっていくものの、地球を危機に陥れる巨大生物と戦うわけではないし、いわゆる「タイムリープ」はあるが、それほど大仰な展開ではない、極めて常識的な範囲のそれである。そして恋愛の要素はほぼ皆無。

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