月収12万円で働く39歳男性司書の矜持と貧苦 勤続15年でも給与水準は採用時からほぼ同じ

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努力や経験が評価されないことが残念だと話すショウタさん(編集部撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。
今回紹介するのは、「記事(48歳「市の臨時職員」、超ブラック労働の深刻)を拝読し、まさに自分たちのことだと思いメッセージさしあげました」と編集部にメールをくれた39歳の男性だ。

猛暑にもかかわらず、首都圏のある公立図書館は多くの人でにぎわっていた。ベビーカーに何冊もの絵本を入れた親子連れや、盆栽関連の書籍を抱えたお年寄り、制服姿の高校生グループ――。ロビーでは、「戦争パネル展」が開かれている。真っ黒に日焼けした子どもたちが、空襲を受けた後の地域の街並みを収めた写真に見入っていた。

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館内の児童書コーナーは、すべての棚が大人の腰ほどの高さにしつらえられている。図書館司書のショウタさんが(39歳、仮名)が「うちでは、子どもの目線の高さに合わせて本を置いています」と説明する。

郷土に関する資料・書籍を展示するコーナーでは、自治体の花が選定された由来や、地元の地名にまつわるエピソードをよどみなく教えてくれた。

「民主主義の社会では、市民一人ひとりが自ら勉強をして、賢くならなければなりません。そのための知識や情報を提供し、市民の勉強を助けること。それが司書の役割です」

大学生のころ、ボランティア活動で知り合った図書館司書から教えてもらった言葉である。当時、大学では理学部で地学を専攻していた。この言葉が、専攻とは畑違いの司書を目指すきっかけのひとつとなり、そして、今も揺らぐことのない道しるべになっているという。

司書の仕事の「醍醐味」

ショウタさんによると、司書の仕事は「貸出・返却」のほか、図書館で購入する本を決める「選書」、利用者が探している資料や書籍を提供する「レファレンス」などがある。中でも利用者の求めに応じ、さまざまな事典や総覧、データベースなどを調べてどんぴしゃりの資料・書籍を探し出すレファレンスは司書の腕の見せどころだ。

「よくテレビに出てくる女の人が書いた、“なんとか、かんとかは正しい”という名前の本」――。こんなあいまいな情報を基に、経済評論家・勝間和代の著書『起きていることはすべて正しい』を探し当てたときは、おおいに感謝された。

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