フェラーリと筋ジストロフィーの意外な関係

エンツォの息子、ディーノが送った人生

性染色体というのは、X染色体と小さなY染色体とがあり、女性の細胞にはX染色体が2本、男性の細胞にはX染色体は1本で、それに小さなY染色体がある。このX染色体に異常な遺伝子があると、1本しかない男性には病気が出てくる

X染色体が2本ある女性は、異常なX染色体の悪い情報を、もう片方の正常なX染色体の遺伝子がカバーするので、病気にはならないか、なっても軽い。なお、Y染色体には遺伝情報は少なく、細胞や体を男性型に方向付けるのが主な役割である。

遺伝子治療の道が開けつつある

デュシェンヌ型は、1986年に最初に遺伝子異常が分かった病気で、ジストロフィンというタンパクができないために、筋肉が壊れていくのだ。ジストロフィンは筋肉の細胞膜と、細胞の骨格を作っている構造との間を結びつけ、外からの力による衝撃を和らげるショック・アブソーバー(緩衝器)の働きをしている。調べていくと、他のタイプの筋ジストロフィーも、このジストロフィンと接続する部位のタンパクの異常があることが分かってきた。

しかし、遺伝子の異常や欠損するタンパクが分かっても、なかなか遺伝子治療は進まなかった。ジストロフィンの遺伝子は、人体で2番目というほどに大きな遺伝子なので、外から細胞内に持ち込むことができないのだ。

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21世紀になって間もない頃に、ジストロフィン遺伝子障害のビーグル犬に、エクソン・スキッピング法という、遺伝子の異常部分を働かなくさせる方法による遺伝子治療を施しているDVDを見た。ヨチヨチと危なげに歩いていた子犬が、治療をされると、いかにも歩くのが楽しいと言わんばかりに、研究者の後を小走りで追いかけていた。

筋ジストロフィーの遺伝子治療ももうすぐだと、筆者は興奮しながら画面に見入ったものだ。

それから10年以上経った2016年の9月にやっと、アメリカの食品医薬品局が治療法として認めた。実験動物とちがって、新しい治療法を患者さんに使って失敗したら、取り返しのつかないことになるので、慎重に慎重を期してトライアルされていた。また、ジストロフィン遺伝子の異常の部位は人によってちがっており、その人に応じた薬品を新たに作らなければならないので、どこでも誰にでも治療できるというのには、まだまだ時間がかかりそうだ。

しかし、神経難病では初めての遺伝子治療の道が開けたのだ。これからが楽しみでもある。

小長谷正明(こながや まさあき)/医学博士、国立病院機構鈴鹿病院名誉院長。1949年千葉県生まれ。1979年名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。専攻は神経内科学。現在、国立病院機構鈴鹿病院名誉院長。パーキンソン病やALS、筋ジストロフィーなどの神経難病を診断・治療する。医学博士、脳神経内科専門医、日本認知症学会専門医、日本内科学会認定医。『医学探偵の歴史事件簿』『ヒトラーの震え 毛沢東の摺り足』『ローマ教皇検死録』『難病にいどむ遺伝子治療』など著書多数。
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