若年性認知症になった52歳男性の病状と仕事

勤めていた会社を退職し、清掃の仕事に

清掃業務に励む信也さん(仮名)。仕事に就いてから、明るくなったという=5月、福井県内

携帯電話のアラームで、午前5時半に起きる。簡単に朝食を済ませ、6時に自宅を出て、車で現場へ向かう。廊下のモップがけなどが主な仕事。1日4時間、週6日勤務する。

若年性認知症の信也さん(52)=仮名、福井県福井市在住=の現在の生活スタイルだ。2年ほど前から会議に出席することを忘れたり、初めて通る道を覚えられなくなったりした。診断されたときは「大きな病気もしたことがなかったから、ショックだった」。60歳まで働くという将来設計は崩れた。

仕事を辞めると、社会から取り残されてしまうという不安が襲ってきた。「家にいることの(家族に対する)後ろめたさもあった。体は元気なので、何かしたいと思っていた」

昨年6月、県若年性認知症相談窓口(福井市の松原病院内)のコーディネーターの夏井絵美さん(28)の紹介で、同市の福井障害者職業センターに通い始めた。「自分は障害者じゃない」という思いが強く、足を向けるまでには時間がかかった。センターではビジネスマナーや求人票の見方、履歴書の書き方といった講習、指定された商品の選定、電気機器の分解、組み立てといった作業などを3カ月続けた。

ハローワークで、アイビックス(同市)の清掃の求人を見つけた。信也さんは「この仕事ならできる」と思った。面接では、認知症であることを打ち明けた。

「仕事がしたい」という熱意があった

採用担当の山本俊一さん(51)は、信也さんと会社近くを散歩しながら、いろいろな話をした。「認知症の人を雇ったことはなかったが、信也さんの受け答えはしっかりしていた。

何より『仕事がしたい』という熱意があった」。認知症という理由で社会からはじかれるのは、もったいないとも思った。「(仕事でミスする)リスクは認知症の人に限らず誰にだってある」。上司の理解もあり昨年11月、パート採用を決めた。

ちょうどフロアに通路が一本しかない現場があった。「これなら作業中に迷うことはない」と、信也さんを担当にした。

1人での現場作業。最初の2カ月、山本さんは信也さんの仕事ぶりを緊張しながら見守っていたが「観葉植物の水やりなど、自ら仕事を見つけることがあった。今年2月の大雪のときには、4時間以上かけて現場に行ってくれた。今では一般のパート社員として普通に接している」と信頼を寄せる。

信也さんとかかわり続けている夏井さんは「仕事に行きだしてから、信也さんは明るくなった。『命を取られるわけじゃない』と病気に対して前向きになった」と話す。

信也さんは認知症本人と家族の交流会にも、できる限り参加している。「自分がいることで、場の雰囲気が明るくなればと思っている」

認知症は進行性の病気だ。信也さんは「今日できたことが明日できなくなるかもしれない。いつか、仕事に支障が出るかもしれない」。山本さんにも同じ不安はある。「だけどミスがあれば、一緒に謝りに行こうと思う。信也さんはそう思わせてくれる人。だから採用したんですよ」

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