教養がない人々が語る「常識を疑え論」のワナ 「イノベーションごっこ」に陥るエリートたち

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「常識を疑え」とは?(写真:erdre/iStock)
日大アメフト部監督による暴行指示、財務省による森友・加計問題に関する情報操作、大手メーカーによる度重なる偽装・粉飾など、日本型組織の問題点が表面化したニュースが増えています。『武器になる哲学』の著者で、哲学科出身の外資系コンサルタントという異色の経歴を持つ山口周さんは、その根本的な原因について教養という視点から指摘しています。

日本でイノベーションが起きない根本原因

筆者がコンサルタントとして日々仕事をしていて、日本のビジネスパーソンに一番欠けていると感じるのが、「アジェンダを定める」力です。アジェンダとは「課題」のことです。なぜ「課題を定める」ことが重要かというと、これがイノベーションの起点となるからです。

今日、多くの日本企業ではイノベーションが経営課題の筆頭として取り組まれていますが、率直に言って、そのほとんどは「イノベーションごっこ」だと筆者は思っています。なぜそう言い切れるかというと、ほとんどのケースで「課題」が設定されていないからです。

すべてのイノベーションは、社会が抱えている「大きな課題」の解決によって実現されていますから、「課題設定」のないところからイノベーションは生まれません。「課題設定」というイノベーションの「魂」が抜け落ちたまま、表面的に外部からアイデアを募る仕組みやアイデアを練り上げるプロセスを整備しただけで、「オープンイノベーションをやっています」という状況ですから、これは「ごっこ」と言うしかありません。

筆者はこれまで、社会から「イノベーター」と認められている人々に数多くのインタビューを実施しましたが、そこで特徴的だったのは、そのうちの誰一人として「イノベーションを起こしてやろう」と考えていなかった、ということです。彼らは「イノベーションを起こそう」と思って仕事をしているのではなく、必ず具体的な「解決したい課題」があって仕事をしています。イノベーションの停滞が叫ばれて久しいですが、停滞の最大の原因となっているボトルネックは「アイデア」や「創造性」ではない、そもそも解きたい「課題=アジェンダ」がないということです。

そうなると「課題設定の能力」が重要だということになるわけですが、ではどうすれば「課題設定能力」を高めることができるのか? 鍵は「教養」ということになります。

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