保護主義の米議会すら驚く「トランプ通商政策」 米朝首脳会談の裏で高まる議会の反発

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トランプ大統領の保護政策は国内外で批判されている(写真:Yves Herman/ロイター)

保護主義に突き進むトランプ大統領の独自色が強まっている。6月9日に閉会した主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、事後的にトランプ大統領が首脳制限に同意しない意思を表明し、改めて米国以外の6カ国との対立が鮮明になった。6月2日に閉幕した主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議と同様の展開となり、異例であるはずの先進国が一致して米国を批判する構図が、すっかり定着してしまった感がある。

米国内でも、いよいよ反発の声が高まってきた。当面の焦点は、鉄鋼・アルミに対する輸入制限措置の発動である。トランプ大統領は、安全保障上の脅威を理由とした制限措置の発動であるにもかかわらず、EUや日本などの同盟国まで、その対象に含めてしまった。そのため、これまでトランプ大統領を支えてきた共和党の議員からも、「米国の労働者や消費者を助けるのであれば、もっといいやり方があるはずだ」(ポール・ライアン下院議長)との批判的な意見がきかれる。

ついに議会が反旗を翻した

輸入制限措置の発動を封じようとする動きも出てきた。安全保障上の脅威を理由とした輸入制限措置は、1962年通商拡大法232条に基づいて発動されている。共和党のボブ・コーカー上院議員は、大統領が232条に基づく輸入制限措置を発動する際には、事前に議会の同意を得ることを義務づける法案を提案している。2年前にさかのぼって適用されるため、今回の鉄鋼・アルミに対する輸入制限措置も、改めて議会の賛成を得る必要が生まれる。

これまで通商政策は、トランプ大統領が議会の制約を受けずに「米国第一主義」を進めやすい分野と目されてきた。そうした構図に、議会が反旗を翻そうというわけだ。

議会が通商政策で強い影響力を発揮しようとするのは、過去への回帰の試みでもある。そもそも米国の憲法では、関税の決定や国際的な通商を管理する権限を、大統領ではなく議会に与えている。言い換えれば、もともと米国が想定した通商政策の主人公は、大統領ではなく議会だった。原則論としては、大統領が諸外国と通商交渉を行っても、その結果を実現できるかどうかは、議会の判断を待つ必要があった。

それでも大統領が通商政策に関する権限を行使できるのは、その時々の状況に応じて、通商政策に関する権限を、議会が大統領に譲り渡してきた歴史があるからだ。たとえば232条は、1960年代という共産圏の脅威が強く意識されていた時代の立法に基づいている。当時の議会は、共産圏への対抗という目的のために、安全保障上の理由に限定して、関税を引き上げる権限を大統領に譲り渡した。それゆえに、同盟国への発動など、「当初の目的から逸脱した用途で使われるのであれば、一度は譲り渡した権限を取り戻すべきだ」となるのも無理はない。

もっとも、単純に過去への回帰とは言えない面もある。通商政策に対する考え方では、かつてと議会と大統領の攻守が逆転しているからだ。これまで米国の通商政策では、いかに大統領が保護主義的な議会を抑え込めるかが焦点だった。ところが今回の局面では、保護主義的な大統領に、議会が歯止めをかけようとしている。米国の歴史では、異例な事態である。

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