イタリアのリスク、危機の波及は防げるのか 3つのシナリオが想定できるイタリア政局

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元IMF財政局長のコッタレッリ氏が暫定的な組閣を委ねられたが、五つ星運動や同盟は早い再選挙を主張している(写真:ロイター/Tony Gentile)

イタリア国債が売られて、利回りは急上昇、ドイツ国債とのスプレッド(利回り差)は急激に拡大した。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ、信用リスク取引)のスプレッドも5年物で276ベーシスポイント(2.76%ポイント)と大幅に拡大。この水準はトルコなど格付けが投資不適格級でソブリンリスク(国家の信用リスク)が顕在化しつつある新興国並みである。イタリア政治の迷走を受けて、金融市場は風雲急を告げる状況になった。29日にはニューヨークダウ平均株価が391ドル安で引け、市場はリスク回避モードに一気に傾きかけたといっても過言ではない。

今回の政局の混乱は、3月4日のイタリア総選挙において、3つの政党ブロックのいずれもが過半数の票を獲得できず、ハングパーラメント(宙ぶらりんの議会)となったことに端を発している。単独政党では「五つ星運動」が得票率32.4%で第1党となったが、連立では「フォルツァ・イタリア」(FI)と「同盟」を中心とする中道右派連合が最も票を集めた。ポピュリズムの代表的存在である五つ星運動が事前予想よりも善戦したことに加え、中道右派の中では同盟がFIより多く得票したことが、定まらない政権を半ば運命づけていたといえる。

ばらまき財政と反EUを掲げる政党の人気

反ユーロを掲げる五つ星運動と、中道右派連合には属するものの反ユーロの立場を取る「同盟」の得票を合わせると54%と過半数を超えることになった。ポピュリズムがようやく抑えられつつあった欧州地域に反ユーロ政権が誕生すること自体が、金融市場の重しとなりやすかったが、足元の金融市場の動揺の背景には、2つの動きがあったことを指摘したい。

第1に政策綱領に関する両党のすり合わせの中で財政赤字が急拡大する懸念が広がったこと、第2に新首相候補による組閣が大統領によって拒否されたこと、である。それらが、イタリアの政治の乱れと迷走ぶりを象徴したものだから、金融市場も盛大にそれを受け止めてしまったというわけだ。

1点目については、政権を担うことが決定してからはユーロ懐疑派のレトリックをトーンダウンさせていた両党が、財政計画において、妥協はしたものの、EU(欧州連合)とは対立する姿勢を示したということがある。提案された減税と最低所得保証という案は単独でも700億ユーロ、対GDP(国内総生産)比で4%のコストに相当する。これに加えて、年金改革案の一部撤回も含まれており、財政赤字膨張は必至であった。

さらに、すでに撤回はされていたものの、ECB(欧州中央銀行)が保有するイタリア国債を減免扱いにする、とか、行政部門の未払い金や税金還付金について無利子のイタリア国債で支払うといった提案は、さながら、2017年5月のフランス大統領選においてマクロン大統領のカウンターパーティであった極右のマリーヌ・ルペン氏の提案を彷彿とさせるものであり、一気にイタリア国債に対する懸念が高まる結果を招いた。

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