個性的!ヴィンテージマンションという世界

東京・目黒の泰山館に行ってみた

回廊のような通路は幅が広く、緩やかな段差があり、歩いているだけで心地よい(写真:織田孝一)

泰山館がこの理論に基づいて建設された発端は、当時のオーナー、故・小杉勇(こすぎ・いさむ)さんと、建築家の泉幸甫(いずみ・こうすけ)さんの出会いにあります。小杉さんの息子さんで現・オーナーの小杉均(こすぎ・ひとし)さんはこう語ります。

オーナーと建築家との幸福な出会い

「この土地はもともと農地として近郊農家の方々に貸していたものです。父は会社員でしたが65歳で退職後、ここにマンションを建てようと考えました。しかしこの地域は第1種住専(低層住居専用地域)なので、高層建築は建てられません。どこにでもあるようなマンションでなく、他とは違うことをしたかったので、私の友人を通じて建築家を紹介してもらい、低層マンションを建築することにしました」

ときはバブル経済の時代。小杉勇さんは相続対策としてマンション建設を考えたのですが、ゼネコンなどに任せっぱなしにせず、一から建築の勉強をして取り組みました。詳しい理由は分かりませんが、東京の乱開発を目の当たりにして、それとは違うやりかたをめざしたのかもしれません。いずれにしても、「一つの賭ではあったと思います」(小杉さん)。

このとき、紹介された建築家が泉幸甫さんでした。

泉さんは30歳で建築家として独立、設計事務所を構えて約10年を経たころでした。しかしそれまで仕事は少なく、細々と一戸建て住宅を手がけるような状況だったそうです。世の中はバブル経済に突入していましたが、その恩恵も受けず、むしろ世の風潮に反発しながらこつこつと仕事を続けていました。そんなとき、紹介されたのが泰山館のプロジェクト。それは自分の建築家としての出発点となったと泉さんは考えています。

しかし土地の条件は良くありませんでした。泉さんは「北側斜面で、近くに川があり、低地で湿気が多く、どの駅からも遠い。正直、どうにもならない土地だったのです」と振り返ります。

ここに集合住宅を建設するに当たって泉さんは、パターン・ランゲージを導入しようと考えました。泰山館の仕事を依頼される5年ほど前、泉さんはパターン・ランゲージを実践した経験を持っていたからです。この手法の創始者クリストファー・アレグザンダーが埼玉県入間市に盈進学園(えいしんがくえん)東野高校の建設を手がけることになり、泉さんはそこに日本人スタッフの一人として参加したのです。

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