「ホームレス路上訪問活動」がやっていること 新宿の「おっちゃん」たちとの出会いと思い出

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夜の新宿公園の様子(写真:pretty world / PIXTA)
上智大学文学部新聞学科の水島宏明教授が指導する「水島ゼミ」は、大学生に小さなビデオカメラを持たせ、この世の中にある何らかの社会問題を映し出すドキュメンタリーの作品づくりを指導している。
若者たちが社会の持つリアリティと向き合い、最前線で活動する人々と出会うことによて、社会の構図や真髄を自ら把握していってほしいという取り組みだ。そんな若者たちの10章のドキュメンタリーをまとめたのが『想像力欠如社会』(弘文堂)である。今回、その中から松本日菜子さんによる第3章『路上生活の”おっちゃん”たちからの贈り物』を全文転載する。

「街を歩く 心軽く 誰かに会える この道で すてきな貴方に声をかけて こんにちは私とゆきましょう オー・シャンゼリゼ オー・シャンゼリゼ いつも何か すてきなことが 貴方を待つよ シャンゼリゼ」

これは、フランス人歌手のダニエル・ビダルが日本語で歌った「オー・シャンゼリゼ」の1番の歌詞。明るい曲調で、道にいる人に笑顔で声をかける様子が思い浮かぶ。これから書く、ホームレス路上訪問の風景。この曲がぴったりだと思った。新宿の路上がフランスのシャンゼリゼ通り。顔なじみのホームレスに声をかける。いつも何か不思議な出会いがある。

シャンゼリゼ通り、すなわち新宿の路上は、私が生きている大学生の社会より、もっと自由に話ができて、喜んで、笑って、真剣になって、「ここにいていいんだな」と実感できる場所だ。おっちゃんたちと過ごす時間は、自分が一番自分らしくいられる。

出会いと思い出

「こんにちは」、「こんばんは」、「何してたの?」、「おやすみなさい」。そんなに大したことのなさそうな会話だ。でも、私には1対1で話している感覚がある。スマートフォンでは簡単に連絡ができない相手。自分の足で直接会いに行く。その分、話している時間は何か特別な感じがする。

路上訪問は毎週土曜日の夜7時から始まる。友達と遊んだ帰りの人々が新宿駅に向かうのに逆らって、私はおっちゃんたちに配るお味噌汁のポットを肩にさげ路上に向かう。1日が終わろうとしている中で、「今日はどんな出会いがあるかな」。そんなことを考えて歩くとわくわくする。新宿で夜回りをしていると、本当に多くの「出会い」を繰り返す。

ホームレス路上訪問活動をしながら迎えた2017年元日の夜。靴下を何枚もはいて、ヒートテックを重ね着した。「寒い」というより「痛い」と感じる真夜中。わざと体温を奪おうとしているんじゃないかと思うぐらい寒かった。

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