輸入代理店の常識破る「登山家社長」の決断

登山用品の海外通販サイト人気に危機感

今は日本にいながら、海外の安い通販サイトを手軽に利用できる時代。登山用品も例外ではなく、坂下直枝社長は国内の登山用品業界が直面する問題に強い危機感を抱いているという(撮影:梅谷秀司)
登山は幅広い年代が楽しめるスポーツ。ただ、専用の衣料や靴、ザック(リュック)など、登山用品は値段が高い。欧米メーカーが大半を占め、日本での販売価格には輸入代理店(またはメーカーの日本法人)のさまざまな経費、利潤が上乗せされているのでなおさらだ。本国より3割以上高い値段で商品が売られているブランドもある。
そうした中にあって、登山用品専門の輸入代理店、ロストアロー(本社:埼玉県鶴ヶ島市)は異色の存在だ。昨年夏に小売店を集めた展示会で、「弊社が扱うすべてのブランド、商品はメーカー本国との内外価格差をゼロにする」と宣言。基準となる為替レートを適用して、今年3月の価格改定で全商品の内外価格差を解消した。
これが三流ブランドの商品ならまだわかる。しかし、同社が取り扱っているのは、登山・クライミング用品の米ブラックダイヤモンド、ザックの米オスプレー、登山・スキー靴の伊スカルパ、アウトドア用靴下の米スマートウールなど、世界中の登山愛好家から支持されている各分野の一流ブランドばかりだ。
なぜ自社の儲けを削ってまで、内外価格差ゼロにこだわるのか。ロストアローの創業者で国際的に著名な登山家でもある坂下直枝社長に、その真意を聞いた。

ショールーミングの風潮に危機感

――なぜ、内外価格差をゼロにしようと?

1年以上前、ある登山用品専門店の店長から相談を受けたのです。店頭で商品を下見して、最終的に安い通販サイトで購入する「ショールーミング」の風潮が広がり、店員たちの士気がすごく下がっている、どうしたらいいのでしょうと。

客の質問に答えながら、何十分もかけて最適なザックや登山靴を選んであげたのに、買わずに帰っていく。そんな経験が何回も続いたら、誰だって、「自分は何のために接客しているのだろうか」とむなしい気持ちにもなるでしょう。

家電などの小売りの世界では早くから顕在化していた問題ですが、専門性の高い登山用品ももはや例外ではありません。日本よりも価格の安い欧米の通販サイトに客が流れている。そうした動きが今後さらに加速すれば、販売店従業員の士気がもっと下がるどころか、日本の登山用品業界全体が立ち行かなくなるという危機感があります。

――つまり、海外のインターネット通販への対抗策というわけですね。

そうです。いい用品をできるだけ安く買いたいと消費者が考えるのは当然のこと。でも値段が同じなら、信頼できる近くの専門店で買おうと思いますよね。少なくとも当社が扱っている商品に関しては、そうなるようにアクションを起こすべきだと考えたのです。

今までだって、日本の消費者に適正な価格で提供してきた自負はあります。ザックやトレッキングポール、ウエア、靴下など、取り扱っている商品の多くは本国とほぼ同じ値段で販売してきましたから。

ただ、登山靴のようにコスト的な制約で難しいものもありました。代理店が革製の登山靴を輸入する際には27%の関税がかかるのです。しかし、今回思い切って、登山靴も含めて、全ブランドの全商品を本国の標準販売価格と同じにしました。お客さんや小売店にとっても、そのほうがシンプルでわかりやすいでしょうから。

次ページ専門店がなくなれば、登山文化も途絶える
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