AIで本当に人間の仕事はなくなるのか? アダム・スミスが予見できなかった未来

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現代は、何も「生産」しないサービス業の労働が過半を占める(写真:IYO/PIXTA)

この文章をご覧のみなさんは、何を生産していますか?

今の時代、けっこう答えに詰まる問いかけなのかもしれない。何かを生産していないことには、今はやりの生産性論議の仲間に入れてもらうこともできない。さて、自分は、何を生産しているのか?

毎年、新年会の集まりでは私も参加して、おそらくみなさんと似たような職業の異業種メンバーが集まる和気あいあいの飲み会がある。私はこの会を「非生産的労働者の会」と呼んでいる。理由は簡単、1776年に『国富論』を書いたアダム・スミスの目から見れば、この会合に参加している誰一人も、スミスのいう生産的労働に従事していないからである。

われわれは「生産」していない?

スミスは、国の富は、生活の必需品と利便品の量の多さに依存すると考えていた。そして労働を、生産的労働(productive labor)と非生産的労働(unproductive labor)の2種類に分けた。このうち、非生産的労働とは、次のような仕事がイメージされていた。

「国王や、国王に仕える裁判官と軍人、陸軍と海軍の将兵の労働はすべて非生産的である。全員が社会の使用人であり、他人の労働による年間生産物の一部によって維持されている。これと同じ種類には、とくに権威がある重要な職業と、とくに地位が低い職業がどちらも入る。一方には、聖職者、法律家、医者、各種の文人があり、もう一方には役者、芸人、音楽家、オペラ歌手、バレエ・ダンサーなどがある。」(スミス(1776)/山岡洋一訳(2007)『国富論』339ページ)

スミスは、今でいうサービス業を生産的労働にカウントしていなかったようだ。だから、サービスを生業とするメンバーが集まる会は、「非生産的労働者の会」なのであり、私のゼミの卒業生たちも、毎年、ほぼ100%が非生産的労働者になっていく。

ところで、スミスは、『国富論』の中で、生産性(productivity)という言葉を使っていた。その概念は明確で、有名なピンの製造工場の話を例に引けばわかるように、製造されたピンの本数をたとえば労働者の数で割った商が生産性となる。そのことを『現代経済学事典』(岩波書店)における「生産性」の説明で確認しておこう。

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