人材サービスのニーズの背景に構造的人不足
水田正道
テンプホールディングス(テンプHD)の2017年度業績は売上高5919億円と過去最高を更新した。圧倒的な勢いがある成長の背景には、日本の構造的人手不足と働き方改革の問題がある。水田正道CEOは「企業の需要は非常に旺盛です。リーマンショック後から需要はずっと右肩上がりが続いていて、衰える気配がありません。もはや、人手不足は構造的な問題だと考えるべきで、この傾向は今後も続くと見ています。企業が長時間労働是正のために人員を増やそうとする動きも、これに拍車をかけています」と、最近の好調な事業環境を分析する。

パーソルグループは、この構造的人手不足の解決に挑む覚悟を固めて、そのための体制づくりを急いでいる。対策の方向性は、生産性向上、女性やシニアなどこれまで労働市場に参加していなかった層の就業拡大の二つしかない。
グループ企業が連携して適材適所の働き方を実現
対策の一つ目、生産性を向上するには、国内労働市場の人材流動化を促すことが急務だ。事業環境の変化に伴って、日本企業の中には、スキルに合った仕事がなくなって能力を発揮できなくなった“社内失業者”が大量に発生していると言われる。そうした人々を適材適所に配置して、士気を高め、主体的に仕事に取り組む姿勢を取り戻してもらわなければ、働き手はハッピーになれないし、日本の生産性も上がらない。
適材適所に、仕事と働き手をマッチングさせるカギは、情報の力だ。パーソルグループ各社には、700万件近い働き手の登録情報と、企業の人材ニーズという需給両方の情報が寄せられる。これらを活用することにより、適材適所の配置をすすめられるはずだ。
ただ、一口に人材サービスと言っても、グループの中には、人材派遣のテンプスタッフ、人材紹介・求人広告のインテリジェンスをはじめ、アウトソーシング、コンサルティングなどの事業内容や、対象業種、エリアが異なる90社を超える会社がある。これまで各社ごとに情報の活用やノウハウの蓄積を行ってきたが、複雑化、多様化する雇用の課題を解決するには、グループの連携が求められる。「グループ企業が、シナジーを発揮するには、各社の結束が必要でした。だからこそ、目指すものを一つにする必要があったのです」と、水田CEOは、統一ブランド導入の狙いを語る。
たとえば、人材紹介のインテリジェンス(今年7月にパーソルキャリアに社名変更の予定)は都市部を中心に展開しているため、地方の企業のニーズを十分にカバーできていなかった。一方、人材派遣のテンプスタッフ(同パーソルテンプスタッフ)は、全国各地に拠点があり、地方のニーズを把握できる。両社が別々に動いていては、地方の企業への人材紹介は難しいが、連携すれば、これまでできなかったサービスを提供することが可能になる。

「経営の理屈だけで組織を変えることは困難です。しかし、顧客と真摯に向き合っている現場は、グループとして総合的に人材サービスを提供するという、われわれが進むべき道を肌感覚で理解してくれていました」と水田CEOは手応えを口にする。16年6月の新ブランド発表当初は18年春の予定としていた持株会社を含む主要な事業会社の社名変更が、17年7月に1年前倒しできるのは「もっと早く」というグループ各社の後押しがあったからだ。埼玉・大宮や名古屋では、複数のグループ企業が共同して統合オフィスを開設、総合的なサービス展開も始まっている。今後は、情報共有のためのデータ基盤の整備をはじめ、グループ各社がもつあらゆる資産を活用できる体制整備を急ぎ、仕事と働き手のミスマッチを極小化することによって、社会的課題解決に貢献。働き手と企業の双方の成長に貢献するグループビジョン『人と組織の成長創造インフラへ』の実現を目指す。
長時間労働・通勤を是正して多様な働き方を提案
二つ目の対策、就業率向上は、長時間労働をいとわない男性社員中心の画一的な働き方で成り立ってきた日本企業が、多様性をいかに高めるか、にかかっている。これまでは、働く意思はあっても働けなかった、子育て中の女性、そしてシニアといった、人々のライフステージに応じた多様な働き方を実現して、働き手を増やす必要があるのだ。
「当社も、子育て中の女性社員の退職防止が一つの課題でした」と水田CEOは振り返る。そこで設置したのが、「部員全員が残業しない」というルールを明確にしたダイバーシティ第2事業部だった。
東京・板橋、世田谷区経堂と自由が丘、千葉県浦安市など都心部の外に営業拠点を置いて、通勤時間を短縮。コールセンターなどの社内リソース活用や15分単位の会議設定など、時間を効率的に使う仕組みを整えながら、着実に業績を向上させている。
管理系の仕事の在宅勤務も推進する水田CEOは「長時間労働だけでなく、長時間通勤の問題を解決することも、多様性の確保、生産性向上には必要です」と職住近接の効果に期待を寄せる。
さらに、職住近接を顧客向けのサービスに取り入れたのが、17年4月から、さいたま市浦和区で運営を開始したジョブシェアセンターだ。ここでは、パーソルグループが企業からアウトソーシングで受託した業務をコーディネート。フルタイムで働きたい人、あるいは週3日や1日3時間働きたいなど、それぞれに応じて仕事を割り振って、進行を管理することで、多様な働き方に対応する仕組みを構築。今後も、都心部への通勤の必要がない、23区外の東京都、神奈川県、千葉県などへの拡大を目指す。
これから拠点数を増やしていく
アジアパシフィック全域の人材サービス基盤を
日本の雇用課題解決だけでなくアジアも見据えるパーソルグループは、米国の人材サービス会社、ケリーサービスとの合弁によってアジアパシフィック地域をまたいだ人材サービスを展開している。水田CEOは「アジアパシフィックエリアナンバーワンを目指す」と意気込む。だが、その先に描いているのは、アジア域内で人材の流動性を活性化することだ。

「すでに、優秀な人材は国境を超えた争奪戦の様相を呈しています。そうした人々に日本が働きたい国として認識されなければ選ばれることはありません。そのためにも、透明性、公平性の高い仕組みが必要です」と訴え、国境を超えた人材サービス基盤を構築しようとしている。
人口減少期を迎えた日本という国にとって、構造的人手不足は、個々の企業、日本経済の成長のボトルネックであり、最大の社会課題の一つとなることは間違いない。水田CEOは「中期経営計画(17年〜20年)で、いちばんやりたいことは、パーソルグループが持っているあらゆる資産を総動員し、新しい価値を創出することです。そうして、お客さまから評価され、信頼されれば、自ずと業績はついてきます」と言い切る。その信念の下で、パーソルグループは、さらなる飛躍を期している。