「食事は人と人のコミュニケーションを取り持つものでもあります。大家さんのなかには、トーコーキッチンで人とつながることを楽しみになって、それまではお会いしても物件の話ばかりだったのに、『入居者に自分で育てた野菜を配ったら喜んでもらえたよ!』なんて行動が変わった方もいらっしゃいます」
こうした「人と人がつながる場」「一人暮らしでも、子どもだけでも、安心して毎日を過ごせる場」をつくろうと考えたのは、池田さんの海外生活経験が背景にあります。
池田さんは、日本の大学を休学して、ニュージーランドのワーキングホリデーで英語をマスター。アメリカの大学に編入した後、日本でグラフィックデザイナーとして就職。さらに、ニュージーランドで広告会社を運営して8年間滞在したという、異邦人としての長い生活体験があります。
「アメリカでは知らない人同士でも軽口を交わすことがありますし、ニュージーランドでは、街を歩いていて人と目が合うと、知らない人同士でもニコっと挨拶する習慣があります。そんなとき、『部外者でも認められている、ここに居ていいんだ』と安堵や喜びを感じるわけです。また、私は一人旅が好きで、宿の近くに行きつけの店をつくって通っているうちに、そこに居る人たちとなじみになる、自分の居場所ができる……そんなことが楽しくて、1カ所に長く滞在したものです。1人でも居心地よく過ごせる場所があるということは、誰にとっても安心で素晴らしいこと。人によって他者との距離感の違いはあるでしょうが、その人なりに愛着を感じてもらえる場をつくれればと思いました」

『キッチンがあるから淵野辺暮らしが楽しい!』

ところで気になるのは100円、500円という価格。それで元が取れるのでしょうか。
「100円の朝食はさすがに赤字です(笑)。全体でも収支はトントンです。この食堂はあくまでも入居者サービスのために設立したので、利益を上げることは考えていません。逆に、売り上げが増えたらその分を食材に還元させます。利用者が増えれば、食事の質がますます向上するというわけです。食事をする人が楽しめて、安心できる場所だと思ってもらうことが大切なんです」