村上春樹がノーベル文学賞を取れない理由 そもそも本当にノーベル賞候補なのか?

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世界中に読者がいて、海外の有力文学賞をいくつも受賞しているが…(写真:共同通信)
2016年度のノーベル文学賞は、ボブ・ディランに決まった。そして、やはりと言うべきなのか、有力候補と報じられていた村上春樹が、今年も落選した。村上春樹は、なぜノーベル文学賞を取れないのか。毎年、受賞を待ち望むファンでなくても、同じ疑問を持つ人は多いだろう。この疑問に対する答えを探すために、過去の受賞者とその作品や傾向を材料に、村上春樹についての著作を持つ評論家の栗原裕一郎氏が考察を巡らせる。

 

村上春樹とノーベル文学賞を巡る問題でまず押さえていただきたいのは、それが空論であるということだ。

「なぜ取れないのか?」と問うためには、春樹がノミネートされているという前提の事実が必要だが、そもそも候補になっているのかどうか、わからないのである。

毎年「今年は春樹の受賞可能性は○位」などという記事が出て、2016年は1位だとか報じられていたが、あれはブックメーカーが勝手に発表している賭け率であって、選考にあたっているスウェーデン・アカデミーは何ら関与していない。

村上春樹とノーベル賞をめぐる議論の本質

春樹とノーベル賞についていろいろな人がいろいろなことを言っているけれど、ほとんどはダメな議論だと思っていい。だって、前提があやふやなんだから。いま書かれているこの文章も例外ではない。もちろんベストを尽くして少しでも役に立つものを書くつもりだが、「なぜ取れないのか?」という問いが無効であるという事実は努力で変えられるものではない。どうしようもないことなのだ。

じゃあ、いつになったら実のある議論ができるのか?

春樹がノーベル文学賞を受賞したら。さもなければ、そう、50年くらい経ったら、である。

候補者は事後50年経つと公表されるからだ。50年の経過を待つ前に関係者筋から本当らしい噂が漏れることもある。川端康成の受賞(1968年)に至るまでに、日本人作家で誰が候補に上っていたかは判明している。詩人の西脇順三郎、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫の4名だ。

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