「食」が「学問」になる日
立命館大学が食科学部設置構想を推進
食を総合的に研究・教育する

経済学部教授
井澤 裕司
「今、世界は食をめぐる大きな問題に直面しています」
食科学部開設の目的を問うと、立命館大学経済学部の井澤裕司教授はそう話し始めた。行動経済学の研究者として知られる井澤教授は、食科学部設置委員会の事務局長も兼務している。
「かつては食の問題といえば、量だけの単純な問題でした。けれども今は飢餓と肥満の問題が併存し、食の安全、流通、あるいは食文化などが複雑に絡み合っています。もはや一つの学問分野だけでは解決不能ですし、従来からの価値観やツールだけでも解くことはできません。食科学部の開設には、そういう社会問題を解決したいという強い思いが前提としてあります」
食べることは、人間生存の本質にかかわること。人類はどこで何をどう食べてきたのか、食べることの倫理、哲学はどう変容してきたのか、そうした深い教養がなければ食の問題は解決できないし、一方では科学や技術に関する深く専門的な知識も必要になる。

「だから食科学部では、フードマネジメント、フードカルチャー、フードテクノロジーを総合的に研究し、教育します。海外には食科学系の大学や学部がすでにありますが、ここまでトータルに食をとらえた高等教育機関はほかにありません」
特に重視しているのが、複雑な問題を解決する能力としてのマネジメントスキルだ。
「日本のサービス産業は生産性が低いという弱点があります。サービス産業のかなりの部分が食関連産業であり、その生産性を上げるために何よりも必要なのが教育です。マネジメントできる人材を育てることは、食科学部の大きな目標の一つです」
グローバル志向も特徴の一つ
こうした動きを産業界はどう評価しているのか。外食大手のロイヤルホールディングスの代表取締役会長兼CEOで、日本フードサービス協会の会長も務める菊地唯夫氏が外食産業界を代表してこう語る。
「食科学部設置の計画を知ったときには、日本でもようやくこういう動きが出てきたかという思いがしました。海外には食やホスピタリティの学校がたくさんあるのに、日本ではなぜ食というと農学や栄養学などに限定されているのだろうかと長年思っていたからです。外食産業界は、業界全体を俯瞰してみることのできる人材を必要としており、フードマネジメントを総合的に教育する学部ができることは、業界としても大歓迎です」
イタリア食科学大学の授業風景




もう一つ、食科学部が重視するのはグローバル志向だ。食といっても和食だけに価値を見出すのではなくグローバルに食をとらえ、グローバルな観点で問題解決に寄与できる人材を育てる。そのために食科学部では「語学教育にも特徴を持たせる予定だ」と井澤教授は言う。
「英語教育のレベルは立命館大学でもトップクラスにします。学生には、ビジネスに使える、発信力のある英語を身に付けさせます。授業時間は本学の文学部や国際関係学部と同等。近年は英語専修の流れが強い中、あえてイタリア語等の第二外国語も必修です」