プロ伝授「スーパーでおいしい肉を買う」コツ 「と畜」から1日でも多い日数の肉を選ぼう

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細かなサシが入った赤身肉は、味わいも残しつつホロッと溶けるような肉質(著者撮影)

つい先日のことだが、東京は築地の裏路地に店を構える「鉄板焼きKurosawa」という店で、目の前で焼いてくれる黒毛和牛を堪能する機会があった。出てきたのは、3週間前に競り落とされた岩手県雫石産のA5の個体だった。きれいに小ザシ(細かなサシ)が入った各部位を目で楽しんだ後、シンシン、イチボ、リブ芯の順に焼いてもらう。通常は赤身の多い部位であるモモ肉にまでサシが入っていることを「モモ抜けがいい」と言うが、まさに細かなサシが入ったシンシンは、赤身肉の味わいも残しつつホロッと溶けるような肉質。イチボは、真空パックをせずに肉塊を吊して熟成させていたこともあってか、うっすらと熟成香をまとって味わいが大きく膨らんでいた。最も派手にサシが入るリブ芯も、くどさを感じさせることなく、夢中になって相当量の肉を食べきってしまった。

心の底からおいしいなあ、とうなりつつ、別の店での体験が脳裏をよぎった。同じく鉄板焼きの有名店の晩餐に呼ばれたことがある。おそらく赤身牛肉の仕事に従事していた私に向けた牽制だろうか、最高級クラスのA5、松阪牛の42カ月齢という、未経産牛ではかなりの長期肥育、その血統もすばらしいものが出た。ただし、鉄板で焼かれ自分の皿に盛られた肉を口に運んでも、香りや味わいというものが乏しく、口の中で溶けるようになくなっていくだけ。おいしさはまったく感じられなかった。

味も香りもない「A5」もある

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直後、その店と懇意にしているという出席者が「どうですか、あなたは赤身肉がいいと言うけど、この肉を食べても同じことを言いますか」と私に話しかけてきた。きっと「驚くほどおいしいA5で、前言撤回します」という返答を期待していたのだろう。けれども「味も香りもなくて、おいしいと思えません」と返すと、えっ?という表情になり、もごもごと何かを言いながら去って行った。このとき、私の舌がおかしいのかなとも思ったのだが、近くにいた料理店の社長さんも「うん、香りも味もあまりありませんね」と言っておられたので、私だけの感想ではなかったのだろう。

黒毛和牛のA5ランクで、極め付きにおいしいと思える肉は確かにある。ただしすべてのA5がそうではない。それは、そもそも食肉格付けというものがおいしさを基準としているわけではないということに起因している。そのいきさつを前回書いた。

ではおいしい牛肉とはどのようなものなのか。消費者はそれを選ぶことができるのかということについて書いていきたい。

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