萩野公介を育てた男が語る「指導者の気構え」

謙虚な心を持ち、固定観念をみずから崩せ

そのためには何が大事かといえば、やはり初心者と同じ目線で向き合うことである。

変なプライドや実績などを忘れて、とにかく謙虚になること。誰でも最初は泳げなかったのだから、自分が初心者だった頃のことを思い出せば、自然に謙虚な気持ちになれるはずだ。

生徒たちに向かって上からものを言うような態度は、反発を買ったりするだけだ。上から目線や、腹を立てて怒鳴るだけでは思うような指導はできない。初心者に限らず、どんな人を相手にする場合でも、指導者はまず謙虚な心をもつ必要がある。

それが、指導者としての「イロハの、イ」であることを忘れてはならないと思う。

攻めのコーチングから待ちのコーチングへ

コーチとして初めて選手を指導するようになったのは、二五、六歳の頃だった。

選手たちから見れば兄貴分みたいな感じだったからだろうか、私が教えることはみんな素直に聞いてくれた。その結果として、記録が驚くほど急激に伸びたのだ。

そうなると、コーチである私を選手の親たちはチヤホヤしてくれる。私より10歳は年上である保護者たちが、自分の力量を認めてくれたと思うと悪い気はしなかった。

ところが、逆にちょっとでもうまくいかなかったときは、その反動がくる。まるで手のひらを返したように責め立てられるのだ。試合で記録が伸びなかったりすると、それこそケチョンケチョンに貶されてしまう。

そんなことで悩んだ時期もあった。

それとは反対に、才能のある選手が出てくると、どうしても自分でコーチをしたいから、みんながその選手にチヤホヤする傾向になることがある。これまでの経験から、私はそれだけは避けようと思っていた。

「速い選手も遅い選手も、みんな一緒なんだ」

という気持ちでトレーニングしていかなければならない。ある選手だけを特別扱いすれば、結局はその選手が周囲から妬まれるし、コーチも他のコーチから妬まれることになる。何もいい結果につながらないのだ。

選手にしてみれば、コーチから、

「お前は才能があるから頑張れ」

と言われて認められたら、悪い気はしないはずだ。それがわかっているから、コーチとしてはついつい口に出したくなる。だが、本気になって育てようと思ったら、しばらくは黙って見守ってやるべきではないかと思う。

選手がある一定のレベルに達するまで、じっと我慢して待っていたほうがいい。

伸びる選手は必ず頭角を現すし、やがてはそれを選手や親などのグループも認めるようになる。そのときになって初めて、認めてやり褒めてやればいいのだ。

「こいつはきっと強くなる」

そう思いこむことも、ときには必要かもしれない。だがそれと同時に、もうちょっと客観的に眺めながら、待つという姿勢が大切なのではないか。そう思うようになった。

それまでの「攻めて、攻めて」というコーチングから、「待ちのコーチング」へ。私のコーチング・スタイルが変化してきた。(続く)

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