英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか EU研究第一人者の北大遠藤教授が分析

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離脱交渉に臨むイギリスのメイ新首相(左)とEUの盟主・独メルケル首相。今回のイギリスの事例は、「EUの再編」をも超える、世界史的な事件だった。なぜそう言えるのか、これからの世界はどうなるのか(写真:AP/アフロ)

第1回 英国はEU離脱で「のた打ち回る」ことになる
第2回 英国が「EUを離脱しない」は本当なのか

イギリスの離脱により欧州連合(EU)はどうなるのか、世界にとってそれはどういう意味を持つことになるのか。連載の最終回(第3回)である今回、この問いに取り組みたい。

EUのダメージをできるだけ正確に推し測ってみよう

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今回の国民投票は、EU史上初めて、一国家が脱退することを意味する。大げさに言えば、それは世界史的な事件である。EUは間違いなくすでにダメージを受けたし、これからも受ける。その先、ダメージをフェアに推しはかることが大事なのだが、それは簡単な作業ではない。

実際、直後の反応も見事に割れている。例えば一方では、欧州議会議長シュルツは「これはイギリスの危機であって、EUの危機ではない」とし、他方では、投資家のジョージ・ソロスは「EU解体は事実上不可逆」という。そういうときは、事実から入り、そののち徐々に目に見えない影響に移るのが良い。

まず経済から入ろう。イギリスは世界第5位のGDPをもち、EU域内ではドイツに次ぐ第2位の経済体である。のみならず、世界じゅうから資金を集め、金融ネットワークを張りめぐらす大国である。その力がEUから抜けていくとき、相応のダメージは避けられない。

今後英欧間でどのような貿易投資体制が組まれるのか、まだ見通せないが、その行方によっては、EU27ヵ国の1000億ユーロ(約12兆円、1ユーロ120円で換算)ほどに上る対英黒字が大きく減少する可能性がある。

ただし、EUの対英貿易はEUのGDP全体の3%ほどにとどまるので、アイルランドなどへの局所的ダメージを除き、それだけで全体に深刻な影響が出るとは思えない(後述のように、イタリアを発火点にユーロ危機と連動すると厄介であるが)。

いずれ英欧間で自由貿易圏の形成がなされる可能性が高く、その場合には影響は軽微だろう(逆にイギリスの対EU貿易はGDPの13%を占めており、得意とする金融サービスなどが自由貿易から除外される可能性もあり、その場合イギリスへの影響より大きいと思われる)。

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