「イスラム国の処刑人」は、普通の学生だった 元クローズアップ現代の国谷裕子氏が読む

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戦争や内戦で疲弊し追い詰められた人々の声に耳を傾けていた後藤さん(写真:ロイター/アフロ)
IS(イスラム国)に引き渡された後藤健二さんがジハーディ・ジョンと呼ばれる黒ずくめの人物に"処刑"されたのが、2014年1月。このほど、このジハーディ・ジョンと生前接触のあった唯一のジャーナリスト、ロバート・バーカイクによる『ジハーディ・ジョンの生涯』という本が出版された。
英国の工科大学に通う物静かな学生エムワジが、イスラム国の処刑人として後藤健二さんを殺害し、米国のドローン攻撃によって命を落とすまでを描いたこのノンフィクションを、後藤さんと親交のあったクローズアップ現代の元キャスター国谷裕子が読み解く。

戦争が市民にもたらす苦悩を伝えようと

一昨年秋の渋谷のNHK放送センター。開いたエレベーターの中に日焼けした後藤健二さんの顔があった。彼はいつもの屈託のない笑顔で一言「おひさしぶり!」と声をかけてくれた。

しかし、次に見た後藤さんは、オレンジ色のジャンプスーツを着せられ、ひざまずかされたまま、険しい表情を浮かべ、まっすぐに前を見つめていた。

フリージャーナリスト後藤健二さんは、2000年7月以来、NHKのニュース番組やドキュメンタリー番組において数多くの映像を提供したり、リポートを制作していたが、私がキャスターを務めていた「クローズアップ現代」でも、彼が取材、制作した映像を使って3本の番組を放送している。プライベートでも私には共通の友人もいて、何度か後藤さんと会っていた。シエラレオネ、パレスチナ、アフガニスタン、ルワンダ。後藤さんは戦争や内戦で疲弊し追い詰められた人々の声に耳を傾けていた。「自分は決して戦場ジャーナリストではない」と周囲に語り、戦場の最前線報道ではなく戦争が市民にもたらす苦悩を伝えようとしていた。

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