自前主義の会社は技術の変化に対応できない

日本のモノづくりの現場で起きていること

その男性が「『技術者派遣の会社に内定し、派遣技術者として働くことになった』と郷里の両親に知らせたら、母親からひどく心配されてしまった」と話してくれました。その時には僕自身も、派遣会社に登録して派遣先を紹介してもらう非正規雇用の登録型派遣“いわゆる「派遣さん」”と「派遣技術者」との違いを理解していませんでした。だから母親が心配するのも無理はないかなと思い、「派遣という立場は、メーカーの正社員に比べて不安定だと感じますか」と聞いたのです。

佐藤:なるほど。それが世間の一般的な認識なのでしょうね。

作家・経済ジャーナリスト 渋谷和宏氏

渋谷:するとその男性は、「最近ではメーカーの正社員もリストラに遭ったりしますから、メーカーの技術者が安定しているとはもういちがいには言えないんじゃないでしょうか。私は派遣会社の正社員ですから、その点はやはり安定していると思います」「正社員という立場に安住してはいけないと思っていますけれど」と言ったのです。

僕はきょとんとしてしまい、その話はそこで終わってしまいました。気になって調べたところ技術者派遣の多くは、その当時は「特定労働者派遣」と呼ばれ、派遣会社との間に正規の雇用契約を結んでいる正社員であると知りました。この経験をきっかけに、派遣技術者の人たちのことをよく知りたいと思うようになりました。

佐藤:渋谷さんのような高名なジャーナリストにそう思っていただけたのは、私たちにとってとてもうれしいことです。

渋谷:取材を続けるうちに、それこそあらゆる業種の開発や設計の現場で派遣技術者が活躍していることがわかりました。派遣技術者の方々がいなかったら日本のモノづくりがストップしてしまい、日本経済が立ち行かなくなるほど、枢要な立場で素晴らしい仕事をしているのです。それにも関わらず、派遣技術者の存在は知られていない。この事実を広く知ってもらいたいと強く思うようになりました。

もはや自社の社員だけでは技術の変化に対応できない

佐藤:日本で外部の技術者を活用するようになったのは、40年ほど前からだと思います。当時は技術者不足への対応が主な目的でした。ですが、いまでは急激に変化し進歩する技術に対応するために「派遣技術者」を活用するようになっています。

そもそも、日本の製造業には、新卒を採用して会社のなかで育てる文化があります。しかし、それでは技術の急速な変化に対応しきれない。加えて日本企業は、基本的に人事部が採用権を持っていて、事業部や開発部には最終的な決定権はありません。しかも、数百人採用しても、開発現場には1人も配属されないこともある。そのなかで開発をするのですから、常にリソース不足です。そのため、派遣技術者に頼らざるをえません。

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