日本で広がる「ドイツ脅威論」への冷静な反論

経済・金融政策において無力なのは明らかだ

ドイツ・中国関係を扱った章は、本書の中でも最も論拠に乏しい章であるが、重要な章でもある。中国を軸にドイツと日本の歴史認識が対立的に論じられている。

三好はドイツ人が中国の歴史認識、特に第二次世界大戦前夜から戦中期にかけての歴史認識について特別な共感を持っていると見て、ドイツ、ロシア、中国などが属する「大陸国家」と、日本、英国、米国などが属する「海洋国家」の歴史認識が存在しているという。果たしてアジア・太平洋戦争中の出来事について、多くの米英の歴史家が三好の論に同意するものだろうか。歴史記述をめぐるドイツと中国の特別な親近感なるものはこじつけに過ぎないように思われる。中国の「公的」歴史記述はトップダウンであり、中国共産党の主導の下、国家レベルで行われる。ドイツにはこのような要素は無いため、歴史記述は幅広い。今日、ドイツと日本で言論の自由が保障されているのは明らかであり、三好が主張するような大きな差異は両国間の言論には見られない。

個別の具体的な記述はさておき、抽象的なレベルを見ると実は第二次世界大戦開戦から戦時中にかけての、ドイツと日本両国の歴史記述は類似している。つまり両国の歴史記述には感情的な要素が重大な位置を占めているのである。しかし感情的な要素をはらんだ歴史に対して、ドイツでは時に極端すぎると言って良いほどの歴史との直面が見られるのに対して、日本ではこのテーマについて話すことを避ける傾向が見られる。

かつて元駐日大使であるギュンター・ディールは日本滞在時を振り返って『遠方の友』(Ferne Gefährten)という本を出版した。この題は実際、日独間の関係を表すのに最もふさわしい表現だ。一方では両国が地理的に遠く離れていること、他方ではお互いについての知識が足らず、時にお互いに理解し合おうという姿勢も見られないことを表現しているからである。

しかし両国が共有している多くの特徴は、様々な危機に見舞われている現在という時代に、お互いを「友」として結び付けている。その根本には民主主義、思想の自由、平和と安定を目指す外交政策が挙げられる。少子高齢化、社会福祉と国家財政の健全性の確保、そして経済構造の変化といった重要な課題も共通している。友として歩む以上、地理的な位置と歴史的な経験に基づく両国の根本的な差異にも注意を払うべきだ。そうすることによって様々な分野でさらに効果的に協力し、お互いに利益を得ることができるだろう。そしてほんの少しでもより良い世界について夢見ることは決して悪いことではない。

トッドの言う「ドイツ帝国」の「帝国」の定義は?

2冊目のドイツ批判の書は、フランス人人類学者・知識人であるエマニュエル・トッドの『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』である。三好とは異なり、トッドの著作は体系的、論理的なものではなく、様々なインタビューを集めている。本書には一貫した理論的根拠や明確な結論は見られない。また具体的な政策テーマではなく、トッドが政治的・歴史的に関連すると考えるテーマが大局的に論じられる。

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