日本で広がる「ドイツ脅威論」への冷静な反論

経済・金融政策において無力なのは明らかだ

例えば、本書ではユーロ導入が経済学者の反対を押し切ってドイツ政府主導で行われたかのように書いているが、これは事実に反する。とくにユーロ導入に関しては1999年のノーベル経済学賞受賞者であるカナダ人経済学者ロバート・マンデルの強い支持があり、マンデルは「最適通貨圏」という概念を提唱して、ユーロの理論的根拠を作り上げた。貨幣経済学者であり、後に欧州中央銀行初代チーフ・エコノミストに就任したオットマー・イッシングなどの高名な経済学者は、欧州での共通通貨を支持していた。

今日、ユーロ圏に多くの経済的問題が存在していることは明白な事実だ。ただしこれらの問題は通貨危機ではなく国家債務危機として理解する必要がある。ユーロそのものが問題を引き起こしているのではなく、負担不可能な国家債務が急速に深刻な状態にまで膨れ上がってしまうのを助長しているのである。経済政策の担当者はこの問題に適切に対処しなくてはならなかったが、その際に欧州で多くの間違いがあったとは言えるだろう。巨額の公的債務を抱える日本はユーロから多くの教訓を引き出すことができるだろうが、それは三好が論じたものではない。

また、ユーロは断じて、本書で取り上げられている右派知識人ティロ・ザラツィンが分析するような、ドイツによるナチスの過去とホロコーストを清算するための努力の産物ではない。仮にドイツでもデンマークで行われたような国民投票が実施されていたら、ユーロ導入反対派の方が多数を占めていただろう。

ドイツメディアは、中国には好意的どころか批判的

最終章で三好は、ドイツ・ロシア間およびドイツ・中国間の国際関係をとりあげる。ドイツ・ロシア間の共通の歴史や地理的な近さに根差す特殊な関係については実に正確に述べている。ドイツにはウクライナ危機などのため、ロシアに対しては様々な意見や観点がある。状況が複雑であるだけにこれは驚くようなことではないだろう。ドイツ国民が全面的に「プーチン理解者」として振舞うような状況は現在のところ見られない。ちなみに日本政府は北方領土問題に関してロシアと良好な関係の保持に腐心している。

さらに三好はドイツと中国の関係について非常に表面的で誤解を招きかねない紹介をしている。

本書の主張とは裏腹に、ドイツメディアはほぼ一貫して中国には批判的な論調であり、環境汚染や人権問題から汚職に至るまで定期的に報じられている。また中国による2013年の東シナ海防空識別圏の設定は、同年11月13日付「ヴェルト」紙が「中国による挑発」と表現するなど、各紙が否定的なトーンで報じた。ドイツメディアの中国報道があまりにも批判的なので、舞台裏でジャーナリストと財界人との間に対立が生じることもあるほどだ。財界側は中国との経済的な利害関係のため、「穏健な」論調の報道を望んでいるのである。

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