日本で広がる「ドイツ脅威論」への冷静な反論

経済・金融政策において無力なのは明らかだ

まず、福島の原発事故に関する報道についての章で、英国BBCの報道も引き合いにしながら、ドイツのメディアの報道姿勢について、不確かな情報を元に拙速と言える結論(事故を過小評価する、事実をひた隠しにする等)を出してヒステリックに騒ぎ、過度な一般化を行う傾向があるという。

しかし、報道の評価をどのような基準で行っているかを詳しく見ると信憑性は揺らぐ。例えば三好は、様々な事故評価やリスク評価の中から「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」の評価を基準にしたという。その2013年の報告書は、福島ではチェルノブイリ原発事故に比べて10-20%しか放射性物質が大気に放出されていない、としている。福島の原発事故はチェルノブイリに比べてさほど深刻ではなく、結果として騒動の数々には特に意味が無かったというわけだ。しかし事故のもたらした結果について、ある程度の全貌が見えた時点から、このような誘導を行うのは読者の誤解を招くだろう。なぜなら政府事故調と国会事故調の報告書や、吉田昌郎(事故当時福島第一原子力発電所所長)、近藤駿介(事故当時原子力委員長)といった関係者の証言によれば、当時、原発事故が全く別の経過をたどる可能性があったのは事実だからだ。

それは東京全域からの避難が必要になるというケースであったが、事故が最悪のシナリオ通りにならなかったのはひとえに幸運が重なった結果である。日本と各国の報道については、紙一重で首都圏を含む東日本一帯が何年、いや何十年にもわたって人が住めなくなる恐れがあったという背景を念頭に入れて判断する必要がある。三好がこの事実に全く触れようとしないのはどういうわけだろうか?

この疑問へのヒントはドイツの脱原発とエネルギー転換について述べた次章に見られる。このような政策上の大転換に困難さが伴うのはごく当然のことで、南北送電線の建設計画が一度は合意に達したにもかかわらずバイエルン州が抵抗している例のような対立は、政策の障害となっている。現在のドイツが置かれた状況については大まかに言って正確に記されているが、それは三好がほのめかしているような、脱原発とエネルギー転換が「理性的」な産業国にとって根本的に間違った道であるという結論を正当化するものではない。とりわけ日本はドイツのエネルギー転換で見られた過ちから学び、2030年か2040年をめどに脱原発を視野に入れることも可能である。三好が原発賛成派なのは歴然としており、原発依存度の低減の可能性について無視しているのは明白だ。

ユーロ危機? 各国の債務危機が顕在化してはいるが…

本書はさらにユーロ通貨の問題へと切り込む。欧州債務危機に際して、ユーロの構造上の欠陥を指摘し、ユーロが欧州の統一ではなく分裂を招いているという。三好はユーロ導入を失敗と位置づけており、ユーロ導入の経緯を示してドイツこそが失敗の主犯であるとしている。ドイツ主犯論は丁寧に展開されているが、その一方で自説に都合の良い事実だけが示されている。

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