65歳の父はなぜ28歳の息子の命を奪ったのか

「妻と娘を守るため、こうするしかなかった」

駆けつけた警察官に、被告は再度、措置入院を懇願した。三男はこの日、両親の顔を殴るなど、いつも以上に暴力を振るっていた。しかし、三男は警察官が来てからは落ち着いた。「措置入院にするのは難しい」。警察官は言った。

私には、妻と娘を守る義務がある

警察官が帰ると、三男は就寝し、被告は風呂に入った。

弁護人「風呂では、何を考えた?」

被告「主治医や警察に入院をお願いしたが、最終的には措置入院もできなかった。いまの精神医療の社会的仕組みでは、私たち家族は救えないのではないか。そう思いました」

弁護人「今後ますます暴力は激しくなると」

被告「はい。三男は『今度は刃物を使うから覚悟しろよ』と言っていた。今度は刃物を振り回すと思った。私は逃げられても、妻はひざが悪いので逃げられない」

一家は当時、両親と三男、三男の妹である長女の4人暮らし。ただ、妻も長女も三男の暴力におびえ、追い詰められていた。

弁護人「家族で逃げることは考えなかったのですか」

被告「家を出ても、三男は私の勤務先を知っている。職場に怒鳴り込んでくると感じました」

弁護人「警察に被害届を出すことは」

被告「警察に突き出すことは、三男を犯罪者にしてしまうこと。その後の報復を考えると、それはできませんでした」

被告は法廷で、「三男は自分が犯罪者になることを恐れていた。家族がそうさせることはできなかった」とも話した。

7日午前3時前。被告は風呂を出ると、2階にあった出刃包丁を持ち出し、三男の部屋に向かった。寝ている三男の横に中腰で座り、左胸を1回、思い切り突き刺した。

被告「私は、妻と娘を守る義務がある。警察や病院で対応できることには限度があるが、暴力を受ける側は悠長なことは言っていられない。私は夫として、父として、こうするしか思いつきませんでした」

刃物を胸に突き刺すと、血が流れ出る音がした。しばらくして、手を三男の鼻にかざした。息は止まっていた。

被告はそのまま、三男に寄り添って寝た。

弁護人「何のために添い寝を」

被告「三男とは、もとは仲がよかった。三男のことを考えたかった」

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