資生堂、「子育て社員へ遅番要請」は是か非か 小室淑恵ワーク・ライフバランス社長に聞く

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小室淑恵(こむろ・よしえ)/1999年に資生堂入社。入社2年目に育児支援プログラムを開発し、社内のビジネスモデルコンテストで優勝。2006年にワーク・ライフバランス導入のコンサルティングを行う会社を立ち上げる。産業競争力会議の議員で、2児の母でもある
2015年11月9日の朝、ツイッターは「資生堂」というワードで炎上した。NHKで“資生堂ショック”と題する育児中社員の働き方改革が特集されたからだ。
賛否両論を巻き起こしたのは、育児を理由とする時短勤務の女性社員の扱いについて。同社は百貨店などのカウンターで接客販売を行う美容部員のうち、平日の早番シフトに入ることが慣例化していた育児中の時短勤務社員に対し、店頭が忙しくなる土日や夕方の遅番シフトにも入ってもらうよう、要請したのだ(週刊東洋経済の関連記事はこちら)。
資生堂が、女性支援の流れに逆行するようにも見える、この改革に踏み切ったのはなぜなのか。資生堂に勤務していたときに同社の育児支援制度づくりに関わり、2006年からは仕事と家庭の両立コンサルティングを手掛ける、ワーク・ライフバランス社の社長を務めている小室淑恵氏に考えを聞いた。

資生堂の育児支援は10年先行していた

――資生堂が育児中の社員に夕方や土日シフトに入ることを要望できたのはなぜか。

資生堂は10年以上前から育児中の社員へ配慮をしてきて、育児期の女性が離職しない会社になった。資生堂の美容部員の残業時間は、なんと月平均3時間以内。それに加えて、直近で入ったシフトから次の出社までは一定の時間を空ける、いわゆるインターバル規制を徹底してきた。これを実現できている企業はまずない。

真の女性活躍の法則は、長時間労働を撲滅し、就業時間内で出した成果で評価すること。これを既に実践できていた。自分のキャリアを長期でイメージできるようになってはじめて、妻は「週に2回はあなたがお迎えに行ってくれると、私も週に2回夜のシフトに入れるんだけどな」、「土日はあなたが家にいるから、土日勤務してもいいよね」と交渉できるようになる。ベビーシッターを使ったとしても、ペイする価値があると思われる。

だからこそ、「育児中社員なら遅番・土日シフトから外す」という一律配慮を抜け、個別にしっかり面談をして、可能な限りの貢献をすることで会社を支えていこうという、次の段階に進むことができた。そして、家族のサポートが難しい社員には、引き続き配慮がなされている。

10年進んだ企業だからこそできたことを、マスコミは取材の際に理解できなかった。それはきっと、マスコミが女性活躍で10年遅れているからだ。

――テレビ放送では、育休から職場復帰を控えた美容部員が視聴するDVDの中で、執行役員(当時)が「制度を取ることが当たり前になり、甘えが出てきた」と発言。視聴者からは批判が寄せられた。

資生堂の社内向けメッセージを社外の人が見たらそれはびっくりする。女性が長期でキャリアを築けることが当たり前の資生堂と、何もしてきてない企業が「甘え」と言うのとでは、意味が大きく異なる。

そもそも(DVD中で発言した)関根近子氏は、美容部員から執行役員になった。まだ美容部員側という意識が強く、普通の役員の発言とは社内の受け止め方が違う。一律で育児中の人に配慮すれば、当然独身の人に遅番の仕事が偏る。会社側もまた、独身社員に甘えていたのだ。

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