中国を「虚像」でしか見ていない日本人の盲点

「爆買い」のテレビ取材はなぜ紋切り型なのか

開沼:それでは、本の内容に入ります。『革命とパンダ』は装丁もとてもポップですけども、ぜんぜん読んでいない人にも分かる前提で話をしていただくと、どういう内容ですか?

:私は、今はすごく「嫌中」の時代だと感じていて、実際、自分の本を見に書店に行ったら、すごい数の嫌中本に囲まれていて、四面楚歌状態でした(笑)。

それはそれですごく面白いなと思ったんですけれども、今のテレビとかメディアを見ても、中国のイメージって政治とか軍事的には中国脅威論で、文化的な面では「中国人はパクリしかできない」とか、世界中に「爆買い」しに行ってるとか、そういう成金気質みたいなところがすごく強調されています。

今はそういうマイナスのイメージばかり提示されていますが、じつは、そういう嫌中の源流は「親中」の時代にある。今の脅威だったり、成金というステレオタイプも、私の本のタイトルになった「革命とパンダ」というステレオタイプも、実質は変わらないということです。

この本でいう「革命」は、1960年代の日本社会が見た、中国の文化大革命のことです。当時は日本でも安保闘争があったり、革命の時代だったと思いますが、特に60年代後半、全共闘の学生は中国の文化大革命に憧れていました。中国のイメージを「革命」として見ていた時代があったんです。

そのあとの70年代は日本社会が消費社会になり、パンダの来日では、日本全国でパンダブームが巻き起こりました。それで、70年代の中国のステレオタイプは「パンダ」だったというふうに、この本では書きました。

でも、どちらも、中国の現実ときちんと向き合った実像ではなくて、中国を虚像としてしか見ていないステレオタイプだったということを言いたかったんです。

開沼:なるほど。

日本の社会の現実と希望を中国に投影しただけ

:ようするに、日本の社会の現実と希望を中国に投影しただけだということです。特にアメリカという巨大な存在があり、政治的にも支配される中で、60年代はそういう関係から逃れようと、アメリカと対抗する中国の文化大革命に憧れを持ちました。

70年代は消費社会になって、アメリカ的な資本主義の文化を受け入れつつも、例えば環境汚染などに悩み、パンダに代表される自然の動物に憧れを持つ時代でもありました。

開沼:60、70年代に注目したのはなぜですか?

:最初、日本に来た時は、ざっくりと日本社会の中国イメージを研究したくて、資料が豊富な最近の20年を対象にしたかったんです。でも吉見先生から、歴史の研究をやったほうがいいんじゃないかとアドバイスを受けました。たしかに、この20年の中国のイメージを見るにも、中華人民共和国が1949年に成立した直後からの源流を辿ったほうがいいんじゃないかと思ったんです。

それで調べだすと、今の自分の認識からすごくかけ離れた時代があったということに驚き、特に60年代と70年代には今の中国イメージの形成の基礎があると思い始めて、その時代に対象を定めました。

開沼:張さんが中国で暮らしていた時に、中国がそういうふうなステレオタイプで見られていたことは意識していましたか?

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