出口治明氏「挫折なんて歴史に山ほどある」

日本人の「大人」に最も足りないのは勉強だ

──そこで衝突が起こった?

はい。ときはバブルの崩壊後で、新社長は「今は国内に専心注力してセールスを増やし、基盤を固めるとき」という意見の人でした。そして、「こんな大変なときに海外進出とか夢みたいなことを言うな」ということで、計画はお蔵入りになりました。

新社長の言うことは短期的には確かにそのとおりなのですが、当時の日本生命は世界有数の保険会社であり、10年先20年先の種をまいておくべきだというのが僕の意見でした。新社長の方針に納得できず、「海外に目を向けていかなければ、現在の規模をキープできないことは明らか。100年の計を考えれば、ここは方針を変えるべきではありません」と食い下がったのですが、この衝突により、国際業務部長の職を解かれて営業部門へ左遷されました。

歴史上には、自分と同じような挫折体験が山ほどある

──まるでドラマのようなお話ですね……。

でも、正直言うと大して落ち込むことはありませんでした。そのとき思い出したのが、イスラム初期の軍人ハーリド・イブン・アル=ワリードのことでした。ハーリドは“神の剣”の異名を持つ武将ですが、当時のカリフ(最高指導者)だったウマルから疎ましく思われていました。それでハーリドは、ローマ帝国と雌雄を決する「ヤムルークの戦い」を指揮して見事勝利を収めたにもかかわらず、ウマルによって罷免されてしまった。つまり、左遷されたのです。

このような話は歴史上にたくさんあって、あれだけの大功を上げたハーリドですら、トップと合わなければクビになる。「合わない部下を置いておくトップはいない」というのは昔からよくある話で、僕の一件にしたところで、たまたま自分が海外部門を統括していたときに、海外事業を重視しない人がトップになっただけだという話です。ウマルとハーリドの関係を矮小化したものだと思えば、あまり気にもならなかった。新社長が就任して以来、何回も衝突していたので、辞令をもらったときは「やっぱり」と思った。そのときふと思い浮かんだのがハーリドだったのです。

──歴史に学ぶというのは、『人生を面白くする 本物の教養』などにも度々出てくるお話ですね。

自分と同じような経験をしている人は、歴史上にいくらでもいます。かの偉大な哲学者ニーチェだって実は女性にフラれまくっていたようで、「失恋することで人間は寛容になる」などという言葉を残しているくらいです(笑)。

人がなぜ落ちこむのかといえば、「自分だけが」と思うからです。人間は自尊心の強い動物だから致し方ない部分もありますが、たくさん本を読み、人の話をたくさん聞けば、挫折の話は山ほどあることがよくわかる。それを知ると、「みんなも同じだな」「自分だけが例外ではないのだな」ということが実感できます。自分が多数派だとわかれば、さほど落ち込むことはありません。つまり、歴史に限らず「いろいろなことを知る」ことが挫折に対するいちばんの抵抗力になるわけですが、そこが今の日本に最も足りないところで……。

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