「独立できます」と謳う求人に隠れた姑息な罠

労働者が社長になるとは一体どういうことか

その責任を社長がどうとるか、ほかに契約先を探すかどうかなどは、もちろん町工場の裁量だ。自動車会社に、町工場の社長を辞めさせる人事権などない。これに対し、X社では「形だけ対等になっている分社化社長」にして、雇用関係がないかのように「偽装」しているのである。

意味がわからないまま「奴隷社長」に

X社の場合、「分社化社長」を辞めさせるときは「会社同士の委託契約を解除します」と通達するだけでよい。ほかの会社と仕事ができるわけでもないから、仕事はゼロ、実質、解雇となる。しかし働かせているときは、何百時間「社長」に働かせようが、その時間に応じた対価を支払う必要はなくなる。このことは「自営業者」に仕事を委託し、「出来高払い」で契約することとまったく同じなのである。

恐ろしいことは、このIT会社のように、同じビルの同じフロアで「一緒に仕事をしている」にもかかわらず、形式だけは独立させてしまうということだ。こうなると、本当に独立した会社と違って、自由にビジネスをすることも許されない。一方で完全な「自己責任」の状態に置きながら、完全に支配下におくことができる状態なのだ。本人もこの仕組みの意味がほとんどわからないままに、「奴隷社長」に偽装されてしまっている場合が本当に多い。

ただし、このような「分社化社長」は実質的には労働者だといえる場合もある。親会社から「命令」を受けているのだから、法的にも「独立」しているとはいえない場合があるのである。とはいえやはり一度「独立」してしまうと、権利主張のハードルは高い。そうなる前に、「お前を社長にしてやる」はとんでもない罠だということを知っておいてほしい。

奴隷社長……世知辛い「就活の新常識」の数々ですが、実態を知れば怖いものなし。憂鬱な気持ちをはねのけて、2016年を乗り越えていきましょう。

 

(文:今野 晴貴/NPO法人POSSE代表)

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