challenge

イラスト:ミツミマリ

“モッタイナイ”の気持ちを世界へ 現場密着×IoTで切り開く「食」の次世代

 あらゆるモノをインターネットに接続し、コントロール&モニタリングすることで生活の質を向上する「IoT」(Internet of Things/モノのインターネット)。多くの企業が着目するこの分野で、いままでにない方法で「食料の廃棄」を抑制する取り組みが始まっている。

 アメリカ有数のリゾート地で、ある日本のテクノロジー企業とアクセンチュアが連携して食料の廃棄量を定量化し、ムダをカットする試みだ。対象となる食料の廃棄量規模は年間数千トンを超えるスケールを持つ。

制作・東洋経済企画広告制作チーム

ムダの認識=商慣習、必要悪への挑戦

 大規模リゾートでは、日々押し寄せる訪問客の底なしの胃袋を満足させるべく、毎日大量の食事が準備・提供されている。そして、当然ながらそのすべてが消費されるわけではない。パーティやコンベンションの会場となるバンケット(宴会場)や、食べ放題・取り放題のブッフェを中心に、食べきれないほどの食事を用意することは、いわば顧客サービス上の“必要悪”とも言え、シェフたちの「勘と経験」といった、職人気質でまわってきた業界。良くないこととはわかっていても、慣習に従って粛々と日々大量の食事が用意され廃棄されてきた。

 仮に、これを低減することができれば、経営上のコストカットはもちろん、世界的な人口爆発・食糧難に警鐘が鳴らされる現代において、持続可能な社会への貢献にもつながる。単に“意義深い”というより、これからの時代に不可欠だとも思われる取り組みだが、なぜこれまで行われてこなかったのだろうか?

 アクセンチュアの担当として、この取り組みに関わる桃井智徳氏はこう語る。「食料廃棄は、誰から見てもわかりやすいムダである一方、削減が即利益につながるものでもありません。そのため、ムダであることは薄々認識されていながら後回しにされてきました。しかし、リゾートに訪れる観光客や経営層にとっても無視できない問題という意識が高まるなか、環境・地域への貢献という観点からも、ホスピタリティ・サービスの業界で重視・注目されはじめたテーマといえます」。

食料廃棄削減に取り組む企業のメリット

コンサルタントが毎日向き合うのは“生ごみ”?

 食料廃棄のムダをなくす今回の取り組みは、IoT×サスティナビリティという言葉からイメージされる先進的なものではなく、地味で泥臭い作業からスタートした。

 廃棄料を知るための舞台となった米国のあるリゾートエリアには、対象となる一角だけでも数百のレストランがひしめく。廃棄の実態は各レストランのバックキッチンや中間流通過程に紛れ込み、定量的な分析とは無縁だった。信頼に足る廃棄の全体像をつかむため、文字通り、明け方から深夜、仕込みと清掃の合間を縫って、日に複数回、廃棄量をモニター、データ化するという途方もない作業を繰り返した。

 材料の荷受けの段階から、倉庫、食品の下処理をする中央キッチン、調理や盛り付けを行うバックキッチンに、配膳前のバックヤード、バンケット会場など、その対象はあまりにも広い。コンサルタントといえばデスクワークを連想しがちだが、このケースではチームを組んで、複数拠点を預かるシェフたちとの対話と観察を重ねながら、昼夜生ごみ満載の大型バケツや搬送カートと向き合った。

 「レストランの厨房は、職人の世界。スーツを着た人間がずかずかとやってきて、『廃棄データを取る!』と言っても、決してうまくいきません」(アクセンチュア桃井氏)。同氏は、パートナー企業とともに訪問を前に作戦を練り、訪問に向けたわずかな期間で、トップ・シェフやマネジメント層から現場立ち入りへの支援協力をとりつけるとともに、日本でも国際的に活躍されているシェフに厨房での作法について教えを請うなど、現場に受け入れられるための準備に奔走した。

 現地では、早朝4時頃から日付が変わる頃まで作業着で現場をまわり、シェフや従業員とコミュニケーションを取りながら、データを収集していく日々。「計測と見回りの合間にレポート資料をまとめ、削減に向けたソリューション手法に関する議論を行い……という、ハードな作業でしたが、お客様もその姿を見ていたからこそ、真剣に報告と提言に耳を傾けていただき、良い議論を重ねることができました」(桃井氏)。

 共に参画する日本のテクノロジー企業と協議し練り上げたこの施策、地道な現場での観察と対話の積み重ねが鍵となり、リゾート内のあらゆる食の流通経路・廃棄発生の流れが解明されることで、最も廃棄の削減効果が見込める領域が浮き彫りになった。

 「IoT」とはいっても、センサーで客数や料理をモニターし、自動的にロスを計算するようなシステムに行き着くのは、現実的にはまだ少し先の話。ポイントは、「いかに現場の作業を増やさずに、ストレスなく地道な計量に協力してもらえるか」だという。

 例えば、でき上がった料理を会場に運び入れるプロセスで、これまでシェフが紙のメモ用紙を用いて数量などのチェックを行っていた工程を省力化、ごく簡単な動作で同様の計測が実施できる仕掛けを前述のパートナー企業と検討している。

 現場にとって持続可能で、一定の正確性も担保される計量手段を設計すべくチューニングを重ね、どのプロセスで、どんな量、どんな種類の食品廃棄が行われているか――その“背景”の分析まで可能にする、フレームワークを編み出した。

年間数億円の削減は、ムダのない持続可能な社会へのステップ

 データを詳細に明かすことはできないが、例えば当該エリアのある会場では、ものによっては実際の準備量の5割近くが、手を付けられないまま廃棄されていることが判明したという。こうした廃棄物は毎日数回、各現場から廃棄処理場に典型的な大型リゾートではトラック数台分の食材が日々廃棄される。

 当リゾートは、食材費だけでも数百億円の規模の巨大な現場。実際の削減効果も「億単位」を見込めるため、こうした分析から、特にロスの大きい会場での削減方法の検討に着手。リゾートエリア全体、あるいは世界の主要な拠点へと取り組みを広げるべく検討が続いている。

今後目指されている「食のIoT化」の例

超地道な現場改善からスマートな食のサイクルへ

 構想はさらに広がる。ひとつのエリアからグループ内外の多くのリゾートへの横展開だけでなく、食料流通における消費の現場、つまり“川下”だけでなく、生産や市場など“川上”にも範囲を広げ、トータルでの不効率、不整合の是正だ。

 「お客様・パートナー企業と一緒に目指しているのは、様々な事情で手を付けられてこなかった「明らかなムダ=もったいない」に向き合い、これまでの運営モデルに一石を投じること。経営的な効果を出すだけでなく、社会全体にも貢献するインパクトを狙っています。地域社会への貢献が原動力のひとつとなり、食品廃棄のような市場全体の不整合を是正することがゴールとして共有されています」(桃井氏)。

 こうしたバリューチェーン全体の「最適化」には、複数プレーヤーが関わりと現場の変革が不可欠であるため、実行は容易ではない。しかし、見えない「過剰」と「不足」を可視化して調整する仕組みやIoTを活用した経営への貢献という考え方は、食の現場のみならず、他の業界・領域にも応用ができるため、さらなる実践を通じて実績・事例づくりを目指したいと、アクセンチュアの桃井氏は力を込める。

 今回の取り組みは決して華やかではなく、表にも出てきづらいIoTのカタチだが、それだけに、地道に根を張るように、社会に浸透していくことが期待される。

twitter Facebook Google+

この記事の取り組みについてのご感想は?

参考になった
一緒に取り組んでみたい
あまり興味が湧かない

※選択結果以外の情報が送信されることはありません

Message from Accenture

 大量生産、大量消費の象徴とも見られがちな米国。世界中から観光客が集まるリゾート都市の一角で、そのあり方を見つめなおす勇気ある取り組みが始まっています。
 これまでは見ることができなかったもの、測れなかったものが見通せることで今までとは違った意思決定、業務運用が可能になる、という側面をとらえれば、先進テクノロジー・IoTによって業務を革新する取り組みとも言えます。

 こうした取り組みを可能にした背景には、他ならぬ大手リゾート企業自身が廃棄という社会的課題に向き合い、自らの運営のあり方を変える覚悟と意思決定をしたという事実があります。
 これまでの慣習を変えるには、それが“必要“悪であるほど、相応のリスクテイクと努力を伴います。場合によっては収益やお客様を失う恐怖と 向き合わなければなりません。リスクを承知で変化を選択するには、お客様を信じ、現場のシェフやスタッフを信じ、パートナー企業の提言や技術力を信じる勇気が必要です。米リゾートのトップマネジメントが「自分たちの現場から世界を変えるような試みを生み出す」という言葉で現場を勇気づけたように、経営者の前へ進む強い意志なくして、こうした取り組みを続ける事はできません。

 今回ご紹介した米国の大手リゾートとの取り組みでも、熱意と情熱にあふれたトップマネジメント、現場を仕切る職人シェフたち、パートナー企業の精鋭チームが思いを併せ、アクセンチュアとともに大きな一歩を踏み出しました。
 世界最大規模のリゾート都市を舞台に、食の現場を預かるシェフやリゾート企業と日本のテクノロジー企業、アクセンチュアが連携して取り組む「食の廃棄」という身近で奥深い世界。こうした事例を通じて、IoTサービスの開発の舞台裏で日々奔走する現場の臨場感を体感していただければ幸いです。

アクセンチュア株式会社
通信・メディア・ハイテク本部

アクセンチュア Challenge INDEX