エミレーツ・テレコミュニケーションズ・コーポレーション(以下、エティサラート社)は、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに本社を置く、中東最大級の大手通信会社である。中東、アフリカ、アジアの19カ国で事業を展開し、ユーザー数は1億7000万人以上に達している。
エティサラート社は早くから顧客満足(CS)の向上に取り組んできたが、最近ではさらに、一人ひとりの「個」客へのクロスセルやアップセルに力を入れている。特にここ3年間は、「個をとらえたコミュニケーション」の実現を目指し、さまざまな「カスタマー・エクスペリエンス改革」に取り組んできた。
2013年にはまず、コールセンターを中心とする「インバウンドセールス改革」に着手。センターに入ってきたインバウンドに対して、データに基づいた提案を行うことで、約80億円の収益向上を実現。2014年には「ポータルアプリの抜本的な刷新」を行った。主要な機能をオール・イン・ワンで実現するシンプルなユーザー・エクスペリエンス(UX)にするとともに、もっともユーザーの目に触れる最上段には、インバウンドで提案した内容と同様のキャンペーンを掲示した。この改革により約140億円の増収になったという。同年にはさらにチャンネル横断の個客提案を行い、約480億円の増収効果が生まれたというから驚く。
直近の3年間だけで売上高が約700億円も増えたわけだ。同社のUAE国内向け年間売上高は約9000億円だというから、そのインパクトの大きさがわかる。
「データをもとに、一人ひとりの顧客に最適な提案をする」と掲げるのは簡単だ。
その実現にみな苦心するのは、カスタマー・エクスペリエンスを通じた既存事業の強化や新規事業の創出を行う基盤「DMP(Data Management Platform)」が不可欠だからだ。
具体的には、「大量のデータ」、「システム基盤」、「アナリティクス体制」などである。データがなければ顧客の情報を入手できないことは言うまでもないが、大量のデータを分析する基盤や、機械学習を用いたレコメンドなどのシステムも必要だ。
さらに重要なのは、データを分析し、顧客にどのような提案をすべきか考えるのは、やはり人間である。データサイエンティストなどのスキルを持った人材が欠かせない。「DMPを活用したカスタマー・エクスペリエンス」と言うと、AI(人工知能)などの技術面が注目されがちだが、それよりも大切なのは、顧客にどのような体験を提供するかという点だ。プロダクトアウトではなく、マーケットインの発想が重要なのである。
レベル別の取り組みとしては、まずは顧客のペインポイント(不満点)を把握した上で、それを排除する(Customer Satisfaction)。次に、顧客の求めている情報を各接点を連動させて提供し顧客の粘着度を向上させる(Customer Engagement)。さらに、顧客の潜在ニーズを先読みし、協業情報も提供することで感動体験を提供する(Customer Delight & Surprise)。
3年間で700億円もの売上高アップに成功したエティサラート社の事例が示すように、DMPを活用したいと考える企業も多いに違いない。大事なのはツールを導入するという「手段」ではない。もうひとつ不可欠な要素が必要になってくる。
エティサラート社では、たとえば、コールセンターに入った1本の電話から、顧客の属性、購入・問い合わせ履歴、キャンペーンへの反応などの情報を確認し、「今なら、データ通信量1GBリチャージで映画2本+0.25GBをプレゼント」といった、「正確にカスタマイズされた提案」ができる体制がある。同社のポータルアプリのUXにも反映される。
顧客との「あうんの呼吸」ともいえるつながり。これを通信事業者が自社だけで構築するのは容易ではない。さまざまなプレーヤーとの連携が必須になるが、実はそこには大きな課題がある。デジタルマーケティング業界には、「マーケティング・ストラテジー」、「クリエーティブ」、「テクノロジー」、「オペレーション」など、それぞれの領域ごとに強みのある企業が存在し、分業体制になっているからだ。
これらの壁を取り払い、本当の意味での変革(Transform)を起こすためには、4領域を貫くプロデューサー的な立場のプレーヤーの存在が求められる。
ミッションとしては、「マーケティング・ストラテジー」であれば、デジタルを活用した新規事業開発やマーケティング業務の高度化。「クリエーティブ」はデザイン思考をベースとしたサービス設計・アプリ開発。「テクノロジー」は、最新の技術を駆使したデジタルマーケティングプラットフォームの構想・構築。「オペレーション」は企画から制作、運用、改善までの一貫したデジタルオペレーションなどだ。
現状は、これら4領域をカバーできる企業は少ない。特にグローバルな市場となればなおさらだ。逆に言えば、これらを網羅する知見を備えたパートナーがいれば大いに心強いだろう。
実はここで紹介したエティサラート社のDMP活用を支援しているのが、総合コンサルティング会社のアクセンチュアだ。
アクセンチュアは早くからアナリティクスを活用した改革など、企業のデジタルゼーションを支援する体制強化に努めてきた。さらに、デジタル・ケイパビリティを保有する企業の積極的な買収などを通じて、「マーケティング・ストラテジー」、「クリエーティブ」、「テクノロジー」、「オペレーション」の4領域をカバーするデジタルマーケティングサービスを提供している。
同社は、コンサルティング、システムインテグレーションから、オペレーションなどの包括的なサービスまでワンストップで提供できるのが大きな特長だ。さらに特筆すべきは、成功報酬型、コスト削減コミット型、さらにはJV設立など、自らリスクテイクした形態での協業サービスの提供実績も多い。同社による成果は大きな自信の裏付けでもあるのだ。
ここ最近「アクセンチュアってすごい勢いで変化していますね。」と言われることが増えている。
一つの変化は、右脳型・左脳型人材の融合である。昨今、左脳型のコンサルティング人材に加え、右脳型のクリエイティブ人材が社内に増えてきている。今年3月に改装された赤坂のオフィスには、ラフな格好で出勤する社員も多く、提案書や報告書に右脳に訴える動画や写真を多用するケースも増えてきた。元々、多様なタレントが在籍する会社ではあるが、右脳型人材がうまく融合し、ワクワクするプロジェクトが多く増えてきている。
また、もう一つの変化として、成果コミット型のプロジェクトが増えてきていることがある。今までもコスト削減コミット型でのプロジェクトもあったが、収益向上にコミットした成果連動型のプロジェクトもでてきている。更には、よりリスクをとったJV設立のケースもでてきており、リスクテイクして改革を進めるスキームのバリエーションが増えてきているのである。
アクセンチュアは、デジタル時代の変革を実現していく真のパートナーとして、変わり続けている。今後日本でも、今回のエティサラート社の改革のように、企画~SI~デザイン~運用といったトータル領域でのカスタマー・エクスペリエンス改革がますます増えてくるだろう。このような改革をやりきり、成果にコミットできるプレーヤーは数少ない。我々は常に、このような改革のリーディングカンパニーでありたいと考えている。