東洋経済オンライン | たった一つのつぶやきすら見逃さない常勝企業の顧客開拓最前線

顧客開拓は、いかに多くの見込み客を確実に取り込めるかにかかっている。しかし有効な方法が見いだせずに悩んでいる企業も多いのではないだろうか。実は、その解決策が見込み客自身の“つぶやき”の中にあるという。ソーシャルメディアから取り込まれた情報は、それを活かし切るクラウドや社内ソーシャルネットワークにより、顧客開拓だけでなく、マーケティングやカスタマーサービス、製品開発にまで活用され、多くの企業で優れた成果を発揮している。ここではそ のモデルケースを紹介しよう。

ある企業のマーケティング部長は、顧客への情報発信を担当している。目的は見込み客の開拓だ。効果的なアプローチを行うためには、相手がどんなことに興味を抱いているのかを見極めるのが最初のステップとなる。そのため彼は、ソーシャルネットワーク上の業界動向やトレンド情報をウォッチすることのできるツールを常に活用しているという。

業界内で今話題になっていること、これからはやりそうなトレンドなどを見つけては、それをテーマにした自社キャンペーンを企画して参加を呼びかけたり、ファンサイトへの訪問を促して、さらに詳細な顧客情報を得るためである。"書き込み"や"つぶやき"など生の声を拾うことで、見込み客との距離感を縮め、その情報を蓄積することでより詳細な嗜好などを把握することができるのだ。このように見込み客に対して魅力的な情報を探し出し、それを発信し、顧客獲得へと導くための戦略的なアプローチを展開している。

獲得した見込み客に関する情報は、販売現場でも活用されることになる。営業企画部長は、そのプロファイルから見込み客の好みを把握し、現場のスタッフと社内ソーシャルネットワークで情報を共有。見込み客が興味のありそうなテーマを選んで情報を提供したり、キャンペーンを企画したり、特典を用意したり、来店を促すためなどのアイデアを練り、DMやメールの内容を工夫する。この繰り返しで、新たな顧客を店舗へと導くことに成功しているのだ。

見込み客の情報は、実際に来店に至った時の接客術にも生かされる。見込み客の好みを事前に知ることで、自信を持って好みに合った商品を薦めるなど、一人ひとりの顧客に合ったきめこまやかな接客で購入へと結びつけることもできる。また来店回数を重ねるごとに購入履歴が蓄積され、さらにきめこまかな接客を可能にしている。これにより好感度の向上へとつなげ、自社のコミュニティへの参加を促すなど、顧客との距離をどんどん縮めていく。この相乗効果がリピーターを育てることに大きく役立っているのだ。

たとえば、販売パートナーがいる企業でも、同じように見込み客の情報を共有すれば、営業の効率化を進めることができるだろう。相手先に直接出向くことなく、迅速かつ親密なコミュニケーションが図れ、販売促進支援や問題解決などがスピーディに行える。

当然、販売現場からの情報は、社内にフィードバックされ共有されることになる。中には製品に対する評価やクレームなどが含まれることもあるだろう。このやりとりをカスタマー部門長もウォッチしていて、万一クレームが発生した場合でも早急にカスタマーサポートの現場が対応する。企業に対する顧客の信頼度は、クレーム処理のスピードに左右されるからだ。このようにカスタマー部門が行うサービス向上にも情報は役立てられ、顧客満足度の向上に貢献している。

一方、製品開発の現場では、新製品開発のヒントとして情報を役立てている。刻々と集まる顧客の声を集積・分析することで、どんなことに興味を抱き、どんな製品を望んでいるかが見えてくるからだ。ヒット製品の開発には業界のトレンドはもちろん、マーケットから得た生きた情報を生かすことが何より求められる。普段、販売現場との距離感がある開発部門では、顧客の声は貴重だ。それがデスクにいながら手に取るようにわかるのだから時間を効率よく使うことができ、その分開発への着手が早まり、競合企業に先んじていち早く市場に送り出すことができるようになる。

ここまで一般消費者を顧客とするケースを紹介してきたが、企業を相手とする営業でも同じことが言える。たとえば取引先が、ある商品やサービスに関心を示していることを察知したら、先手を打って営業をかけるのだ。取引先の誰がキーマンなのか、先輩などが残した過去の営業情報から探ることも可能。また商談中、急に必要になったデータをクラウドから即時に取り出して提示したり、その場で上司から決裁を取ることもできる。わざわざ会社に戻る必要がなく、商談成立がスピーディになるのは当然と言えるだろう。また、すぐに関連部署に指示を出したり照会したりできるため、迅速かつ確実な納品もできる。

たった一つの"つぶやき"から顧客の生の声を拾い、リピート顧客化していく。そんなことが可能な時代を迎えている。情報感度の高い企業こそ、成長の可能性を秘めていると言えるだろう。そこで求められるのが、顧客情報が有機的につながり、企業全体を活性化させる社内の仕組みなのである。