いまトップがすべきこと

―― 製品の機能さえ良ければ売れる時代ではなくなりました。

遠藤 消費者ニーズはもちろん、その変化をつかんで、グローバルそれぞれの市場にあった製品を出さなくてはなりません。しかも、いまはリアルタイムで消費者のニーズをつかむ手段もあるのに、マーケティングができていない企業が多い。

石倉 それはトップの問題が大きいと思うんです。どんどん世界が変わっているのに現場の変化をトップが体感できていない。いま現場を知るのにITは、まさに武器になりますよね。

遠藤 日本企業の強さは、"ハイタッチ"にあると考えています。おもてなしの世界とでも言いましょうか。お客様の感動体験をつくりあげるのに長けている。たとえば、それをビッグデータやSNSの顧客情報と組み合わせてみる。ITというハイテクと、ハイタッチのコンビネーションが、日本企業の得意とする領域の可能性を広げるのではないでしょうか。とかく日本企業は、ハイテクか、ハイタッチか、になりやすいけれど、"オア"ではなく"アンド"なのです。

石倉 ハイタッチで、日本企業に匹敵するところはありませんよね。そもそも日本企業は、自分たちの良さを知らない。それは、本当は、世界に出て行って自ら体感していないからだと思うんです。だから自分たちの弱いところも強いところもわからない。客観的に見えていないから、自信過剰になったり自信喪失になったり極端になりがちです。恐ろしいことに、刻々と変わる世界では、自分たちの強みも変化するということ。変わる世界の中で、変化する自分たちの強みを理解し、どう生かすかを考えながら、強みを進化させなくてはならないのです。

遠藤 まさに、そのとおりですね。日本企業の良さは海外企業の方が知っている。京都にもよく訪れていたと言われるスティーブ・ジョブズですが、禅の教えがシンプルでスマートな製品を生み出したのだと思うんです。シンプルな製品を作ることは複雑な機能を持った製品を作るより難しい。真のユーザーニーズが見えていれば、スマホは、本来日本から生まれるてもいい製品だったと思います。

いまITにできないことはない?!

―― 日本企業で成功している企業はないのでしょうか。

遠藤 もちろん、日本企業の中でも、グローバルで自分たちの強みを進化させている企業はあります。たとえば、ファーストリテイリングの柳井正社長は、グローバルで自分たちの強みを発揮するために発想を変えましたよね。ニューヨークの5番街に店舗を構えてブランドバリューをつくって……日本では誰でも知っているユニクロを、グローバルでも同じポジションにもっていくために、ブランドマネジメントが重要なポイントだったのではと私は思います。5番街出店には、そのような意味も含まれていたのではないでしょうか。

石倉 日本企業には、本当の意味でのマーケティングマネジャーがいない、とはよく言われることですよね。それには、まずトップの発想が変わらないと。

遠藤 成功している企業には、トップの意志が強い企業が多いですよね。楽天の三木谷浩史社長もしかり。創業者だからリスクを自分で取れるということもあるかもしれないが、やろうという強い意志があれば、新しいことにもチャレンジできるということです。

石倉 グローバル企業で言えば、ソフトバンクの孫正義社長や日本電産の永守重信社長もそうですよね。これがやりたい、ということがハッキリしている。強い意志があれば戦略も描きやすいけれど、ITも同じ。こういうことがやりたい、ああいうことがやりたいと言って、いまITにできないことって少ないですよね。ITは、うまく使えば競争優位を創出する武器になるのに。企業をサポートするIT企業側も、テクニックにはしらず、こういう風に使えば競争優位につながるといったかたちでバリューを訴求してはどうでしょうか。

遠藤 ようやくITは道具という認識は浸透してきたと思うのですが、武器にできているかというとまだまだ。ですから当社も、ITを上手に活用できるようお客様にイノベーションを起こす知恵出しを行っています。とにかくITは使ってみることだと思うのです。使ってみなければわからないことってたくさんありますよね。新しいものにチャレンジする意欲が大切なんです。

石倉 そうですね。新しい世界を拓く基盤となるITですから、これを使わない手はありません。

石倉洋子 慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 教授

上智大学外国語学部英語学科卒業後、バージニア・ビジネススクールにて経営学修士、ハーバード・ビジネス・スクールにて経営学博士取得。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーで日本の大企業の戦略・組織・企業革新のコンサルティングに従事。青山学院大学教授、一橋大学大学院教授などを経て2011年より現職

遠藤隆雄 日本オラクル 取締役会長

1997年日本アイ・ビー・エム(株)入社。インダストリアル・サービス事業部長などを経て04年に常務執行役員。08年日本オラクルCEO就任。取締役代表執行役社長を経て13年8月より現職

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