いまヒトは、モノが恋しくなっている

―― 高橋さんが、ヒューマノイド型ロボットで実現しようとしていることは何でしょうか。

高橋 ロボットというと、誰もが物理的な作業をするもの、そうでないと役に立たないと思っている。だから、掃除をするならルンバのような円盤型、皿を洗うなら食洗器のような箱型といった、それぞれに適した形になっているわけなんですが、じゃあヒューマノイドロボットは、なぜヒト型なのか……と考えた時、私たちがそこに命を感じてコミュニケーションをとれるということにヒト型の意味があると考えているんです。

たとえば、スマホの音声認識機能を使っている人って少ないですよね。認識精度も十分で便利だけれど、みんな"四角い箱"に話しかけるのには抵抗がある。その一方で、家で飼っている金魚や昆虫、あるいはクマのぬいぐるみにさえ、人って話しかけるでしょう。コミュニケーションをとる対象が、言葉が理解できるか、知性があるかなんて、実は関係ない。相手に命を感じて感情移入ができるかが大切なんです。

だからヒトは、適切にデザインされたヒューマノイドロボットに対しても自然に話しかけることができる。さらにそこにスマホの知性が加われば無限の可能性があって、その先にはまた豊かなライフスタイルがあると確信しています。

じゃあ、スマホの画面上にバーチャルキャラクターをつくればいいと言う人もいるんですが、実体のないものに愛着を感じるのってなかなか難しいですよね。ここ十年、実体のあるモノを所有するのは非効率と考えられてきましたが、その反動で、ヒトはまたモノが恋しくなっている。

その兆候は、すでにいろんなところに出ていて……どんなにすばらしいCGをつくっても感動しない、便利なアプリをつくっても売れないことでもわかるように、バーチャルに対するわくわく、びっくりが失われつつある。逆にバーチャルで培った技術を現実世界にどう活用するのか、バーチャルからリアルへの揺り戻しと言ってもいいと思いますが、そういうことに新しい魅力を感じているんだと思います。

ヒトと“何か”をつなぐ、ロボット

―― ロボットが、バーチャルの世界をリアルで再現する存在というわけですね。高橋さんが開発したヒューマノイドロボット「ロビ」が、今年2月、デアゴスティーニ・ジャパンから発売されました。毎号、雑誌に付いてくるパーツを組み立てていくと「ロビ」が完成するというものですが、創刊号は異例の売れ行きだったとか。

高橋 全70号で合計14万円もかかるのですが、衝動買いして下さった方が多かったんでしょうね。だって「ロビ」は、いままでの物理的作業をこなすロボットと違って、何の役にも立ちませんから(笑)。

実はルンバも、最初のモデルはおもちゃとして販売されていたのをご存じですか。半ばウケ狙いのクリスマスプレゼント用にたくさん売れた。でも「結構ゴミがとれるね」と意外に実用的であることに気づく。それから次モデルとして高価で高性能な機種を売り出したのです。つまりおもちゃのフリをしてロボットの実用性を啓蒙してから、本格的なビジネスを始めるという賢い販売戦略をとったわけです。「ロビ」も同じ。買って下さった方々が「ロボットと暮らす未来が来るかもしれない、そんな生活もいいよね」と感じてくれたら、いよいよロボットの市場が開けると思っています。

―― まずはロボットとの暮らしを想定してもらうための入口ということなのでしょうが、「ロビ」は200語にも及ぶ言葉が認識できますし、いろんなことができますよね。

高橋 どの機能も実用レベルではないけれど、ロボットとの暮らしのイメージは伝わると思います。そして1人1台ロボットを持つ時代が15年以内にやってくると確信しています。いまやスマホの機能って限界に達していますよね。画面がきれいになって、カメラの解像度が上がって、通信速度も速くなって、次はメガネ型、腕時計型の端末になるなどと言われていますが、おそらくそうはならない。だって、やっぱり一人でぼそぼそとつぶやいて音声操作しないといけないから(笑)。

その点、コミュニケーションを目的にした小型ヒューマノイドロボットに優位性がある。自分の胸ポケットにロボットがいて、日常的に雑談をしていると、いちいち指示しなくても「暑がりだから」とエアコンをつけてくれたり、「あの店で好きそうな商品がセールだよ」と教えてくれたり、身の回りの機械や情報を先回りしてコントロールしてくれる。長くいるパートナーって、こうあるべきでしょう。ビッグデータをどう活用するかと言われているけれど、ライフログを収集して活用するツールとしてヒューマノイドロボットは最適なんです。

将来的には、ヒトと機械、ヒトと情報、ヒトとヒトをつなぐ存在としてロボットが居て、もはやすべてがロボットと何かしら関係してくると考えています。ロボットを介すことで複雑な機械が使えたり、膨大な情報が整理できるようになる。技術が進化して高機能になったけれど、ヒトが使いこなせずに挫折している製品、サービスってたくさんありますよね。たとえば薄型テレビのような。それらが再びロボットによって息を吹き返すということも期待できると考えています。

高橋智隆 ロボットクリエーター

2003年京都大学工学部卒業と同時に京都大学内入居ベンチャー第1号となる「ロボ・ガレージ」を創業。ロボットクリエイターとしてロボットの研究、設計、デザイン、製作を手掛ける。今夏、「キロボ」をコミュニケーションロボットとして世界で初めて宇宙へと打ち上げる。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米タイム誌で「最もクールな発明」に選ばれ、ポピュラーサイエンス誌では「未来を変える33人」の1人に選ばれる。東京大学先端研特任准教授、福山大学客員教授、大阪電気通信大学客員教授などを兼任

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