人工知能を活用し、いかに企業価値を高めるか AIQを獲得せよ

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今後のビジネスを変えるITトレンドを予見したAccenture Technology Vision 2017において、「AIの活用」がカギを握ると分析したアクセンチュアが、2017年6月、企業のAI活用状況を計る新たな指数「AIQ(人工知能指数)」を発表した。同社調査によれば、AIQが高い=AIを活用したイノベーションに有効な戦略を持つ企業は、それを持たない企業と比較してより高い企業価値を生み出すことが明らかになったという。
今後のビジネスを占う重要な指数になりうるAIQについて、アクセンチュア デジタルコンサルティング本部でマネジング・ディレクターを務める保科学世氏に聞いた。

制作:東洋経済企画広告制作チーム

今後のビジネスを占う
新たな指標「AIQ」とは?

初めに、「AIQ」とはどんな指標なのでしょうか。

保科 企業がAIを活用してビジネスをどう変革していくのか――それを見定める上で、それぞれの企業が“現在地”を知り、進むべき道を見いだすための新しい指標が必要だと考え、行き着いたのが「AIQ」です。AIとIQをかけ合わせた造語で、この場合のIQとは一般的な意味よりも、考え方を深める・探るという能動的な意味であり、まさに今、AIを取り巻く業界で必要とされる方向性を示しています。

 アクセンチュアでは、200社を対象にそれぞれAIに関する「特許・投資・買収・協業」などの情報に基づくパラメータースコアを算出しました。そのレベルを分かりやすくまとめるため、コアビジネスの変革に向けて自社でのAIの開発、活用の度合いを示す「発明AIQ」、そして他社との協業、共同開発への積極性を計る「コラボレーションAIQ」の2軸を設け、企業を「コラボレーティブ発明者/発明者/コラボレーター/観察者」の4つに分類しています。(下図表①参照)

図表1

発明者

  • ・コアビジネスの変革にAIを活用している
  • ・AIを社内で開発し、AIに必須の資産を持つことで利益を得ている
  • ・人材確保のためだけに社外と協業する

コラボレーティブ発明者

  • ・コアビジネスの変革にAIを活用している
  • ・AIを社内で開発し、AIに必須の資産を持つことで利益を得ている
  • ・資産の共有やAIの共同開発などのために社外と協業している

観察者

  • ・ビジネスの変革や増大に対する価値をAIにあまり見出していない
  • ・AIに必須な資産を持つことに限定的な価値しか見出していない
  • ・比較的小規模な取り組みの実施や状況の観察

コラボレーター

  • ・ビジネスの価値を増加させるためにAIを活用している
  • ・AIソリューションやサービスを導入するために社外と協業し、社内の開発は限定的
  • ・AIに必須の資産を自社で持つことは難しい、または自社で所有することによる利益は限定的

現在の企業の取り組みが大別されたマトリクスにはどんな意味がありますか。

保科 各企業の強みや目指す方向性により、進むべき道はさまざまです。ただ、今回の調査結果を踏まえて理想的だと言えるのが、発明AIQ、コラボレーションAIQがともに高い「コラボレーティブ発明者」(図表①マトリクス右上)です。

 発明AIQ、コラボレーションAIQがともに低い――つまり、AIの活用も進んでおらず、他社との連携もあまり行っていない「観察者」が過半数を占めるのに比べ、「コラボレーティブ発明者」の割合は17%とまだまだ低い数字ですが、これら企業の時価総額、債務残高、現金持高にもとづき測定した企業価値は、2013年以降、平均4.2%と大きく上昇しているという調査結果が得られています。(*) その他の企業は平均2.3%程度です。さらに企業が「観察者」から「コラボレーティブ発明者」に変わることで、企業価値は平均で実に90%上昇すると推定しています。今後、企業が生き残っていくためには、自社でAIへの投資・活用を推進するとともに、他社との協業を積極的に行う「コラボレーティブ発明者」を目指すべきである、というのがポイントなのです。

保坂氏

調査は世界規模で行われていますが、日本企業においても「コラボレーティブ発明者/発明者/コラボレーター/観察者」の割合は同様でしょうか。

保科 日本もやはり「観察者」が多いです。もっとも、必ずしも悪い話ばかりではなく、日本でも優れたスタートアップに大企業が出資するなど、共同のサービスやオープンプラットフォームをつくる動きが出てきており、世界的に見ても良いコラボレーション事例が生まれています。例えば、東京大学発のテクノロジーベンチャーで、ディープラーニング(深層学習)の高い技術を持つ「プリファード・ネットワークス」(PFN)にトヨタやファナックなどが出資し、共同で研究・開発を進めるなど、新たなサービスの創出に向けての大きな潮流が感じられます。

他方、欲しいAIや必要なデータは、その技術を買う方が早いという見方もあります。

保科 自社の強みが何なのか、コアな部分はどこなのか。借り物でいいのか、特許も含めて自社で保有するのか、考えたうえで買収を検討したほうが良いと思います。例えば、ユーザーとのコミュニケーション・インターフェースとして、強力な顧客基盤を持つLINEを活用するからといってLINEを買収しないですよね。自社のアセットとして何が本当に価値をもっているのかを考え、自社で育てるべきものを見極めたうえで、他社とのパートナーシップをうまく活用するべきですね。技術もそうですし、データや人に関してもそうです。

AIQを高め、行動に移すには?

AIQを高める、つまりAIを効果的に導入することはどの企業も模索しています。何が重要になってきますか。

保科 高度なAIQを獲得するためには、「技術・データ・人」という3つの要素の統合と活用が不可欠です(図表②参照)。

 まず「技術」ですが、AIは単一の技術で成り立つものではなく、複合技術の集合体です。センサーやディープラーニングのアルゴリズム、自然言語処理など、どのような関連技術があるのかを理解し、それらを組み合わせて、自社のサービスにどう組み込むことができるか。そのことが他社との差別化につながりますし、きちんと効果が上がる適切なタイミングで投資することも、非常に重要です。

 また、単にAIの技術を取り入れるということではなく、「それがいかに人に寄り添い目標の達成に貢献するか」をしっかり検討することも重要です。このことに着眼し、アクセンチュアは「Technology Vision 2017」において、「AIは新しいユーザーインターフェース—『体験』を第一に」という提起を行いましたが、最新のテクノロジーを導入すること自体が目的になっては意味がない、ということです。

2つ目の「データ」は、企業の生命線ですね。

保科 AIはアルゴリズムだけあっても仕方がなく、データから学習し、いかに進化していくか、というところがポイントになります。その意味で、企業内に蓄積されているデータの量も重要ですが、それがきちんと統合され、AIの成長に活かされるものになっているか、ということも見逃してはいけません。レガシーシステムからデータを集約し、データが集まるポイントに効果的にAIを導入していくことが、AIを活用したインテリジェントなサービスの創出につながると言えるでしょう。

3つ目の「人」ですが、アクセンチュアの提言ではもれなく人の重要性が問われていますね。

保科 AIの活用には、非常に幅広い専門知識が求められます。コンピューターサイエンスや、データサイエンスだけではなく、例えば、今後、AIが企業の顔になっていくという弊社の予測を踏まえると、対人コミュニケーションの面で行動心理学や言語学の知識も必要になります。AIの適用範囲が広く、深まるほど、より文系的な能力も求められていくでしょう。新たなスキルが求められる中、社内だけでそのリソースをカバーするのは難しく、社員のスキルの再構築を促進しながら、他社との協業、あるいは大学などとの連携も強化し、優れた人材の供給体制を築くことが求められます。技術、データとともに、この「人」の部分が整って初めて、既存の業務、顧客体験にも大きな変化を生じさせることができるのだと考えています。

図表②

AIQを磨くために必要な「3要素」と、
問うべきポイント

    テクノロジー TECH
  • ・AIで人間の労働を補い、ビジネスに新たな価値をもたらすにはどうすべきか?
  • ・AI技術同士、およびAI技術と既存のシステムやプロセスを統合するための機能を有しているか?
  • ・自社でのAIテクノロジー開発は、ビジネスを真に変革し、新たな収益をもたらすものになっているか?
    データ DATA
  • ・新たな価値を生み出すデータを所有するのは誰か?またその価値を共有するパートナーシップとはどういったものか?
  • ・社内システムとパートナーの間のデータのやり取りを可能にする仕組みを所有しているか?
  • ・データをAIにフィードバックする能力を有する人材、および機械学習を活用しつつ意思決定を改善するための洞察を持ち合わせているか?
    人 TALENT
  • ・迅速かつ大規模なスキル再構築を行い、管理業務から、判断能力や対人能力の求められる業務に人材を再配置するためのプログラムが社内に存在するか?
  • ・絶えず変化を続ける技術に人材を適応させるために、適宜、社員を教育できる環境があるか?
  • ・分野の異なる新しい人材を効果的に連携させるためのマネジメント能力を有しているか?

AIに対してよく言われる「雇用が奪われるのではないか」という懸念についてはどう思われますか。

保科 それは一面的な見方で、実際には、AIによって新しい仕事がどんどん増えています。単純にAIを導入するだけであれば人手は必要ありませんが、それがきちんと機能するように教育する人=AIトレーナーは必要ですし、人間が決めたとおりに動くこれまでのプログラムと違い、機械自体が学習・進化し、なぜそのような出力がなされたのかわかりづらいAIにおいては、その意味するところを経営者に説明したり、透明性を高めたりする人材も不可欠です。

 また、AIの公正さ、安全性や信頼性についての懸念もついてまわりますから、こういった観点からAIを適用すべき範囲を考え、正しい活用を担保する人も必要になります。単純に人間の仕事が奪われる、という話ではないんです。

AIにゆく道を教えるのは人

AIを活用するためには、企業もそこで働く人材もコラボレーティブであり、専門知識やリソースを共有していくことが重要であることがわかりました。保科さんが統括している「アクセンチュア・デジタル・ハブ」でもこういった取り組みを積極的に推進しているそうですね。
(アクセンチュア・デジタル・ハブ https://www.accenture.com/jp-ja/accenture-digital-hub-index)

保科 進化の著しいAI領域においては、大企業とスタートアップとの連携が非常に重要です。グーグル社は2014年、イギリスの人工知能企業・ディープマインドを買収しましたが、このディープマインドが開発した〈AlphaGo〉が人間のプロ囲碁棋士を破ったことは記憶に新しいですし、アップル社もマイクロソフト社も同様に、AI企業の買収を進めています。

 一般に大企業的なマインドであるほど、リスクを恐れ新しいチャレンジには一歩出遅れるところがあり、そのリソースやデータをうまく活かすことができないこともあります。一方で、スタートアップの側は、技術や発想はあっても、テストフィールドを確保したり、イノベーションのためのコストを負担できないことが少なくない。スタートアップの技術と大企業のデータが結びついてはじめて活きるサービスも多い。この両者がコラボレートすることで、解決できる問題も非常に多いです。

 アクセンチュアはデジタル・ハブの活動などを通じて、多くの企業やスタートアップを結びつけ、社会全体のイノベーションを推進していきたいと考えています。

保坂氏

保科 学世 HOSHINA GAKUSE

アクセンチュア
デジタルコンサルティング本部
アクセンチュア・デジタル・ハブ統括
マネジング・ディレクター

データ分析(アナリティクス)に基づく在庫・補充最適化サービスやレコメンド・エンジンなど、アナリティクスソリューションの新規開発を統括。また、それらをクライアントの業務改革を実現するサービスとして提供する際の責任者として、数多くのプロジェクトに携わる。近年は、AI領域のソリューション開発に注力。理学博士。